国慶節で帰国中に観ようと思っていた。
美容整形外科が舞台というのは新鮮だ。そして最近のネトフリドラマの設定でよくみられる「女優対決」が、この作品でも期待できるのも、視聴の動機となった。その期待通りに松岡茉優と仲里依紗の二人の演技の質は非常に高く、大満足。ただ嬉しい誤算は脇を固めるキャストの豪華さと、実力ある俳優陣の演技が豪華過ぎたことだ。それはまるで本来一人分のフルコースの料理が五人分くらい一気にテーブルに並べられたよう。
大学病院の形成外科医・沼田文(松岡茉優)と遠山美容外科クリニックの院長・遠山凛(仲里依紗)は、医療の質は似ているものの、まったく違う業界に生きている。冒頭で沼田が美容外科のことを毛嫌いする発言が強調され、その強い気持ちが急患患者の処置で問題を起こし、人生を変えていく。
交わらないはずの二人が運命に導かれるように出会い、激しい憎悪のぶつかり合いが、やがて人生においてかけがえない関係になるまでをドラマチックに描く。
個人的には美容整形に対するアレルギーはない。それは極めて個人的な問題であり、他者がどうこう論じる性質のものではないからだ。自己の容貌に自信を持てず人生に希望を見いだせない人にとって、前向きに生きることが出来るきっかけになるのであれば、それはある意味医療行為における治療と同様な効果があるのではないだろうか。
宗教的な立場を持たない自分にとっては、美しくなりたい、自分を変えたいという願望は誰しも持つものであり、選択の自由は万人にあると思う。
高須クリニック全面協力だけあって、美容業界の描写は良い部分も悪い部分も余すところなく描いている。また「地獄に落ちるわよ」「国宝」の特殊メイクを担当したアーティストの一流の技術も相まって、リアリティがすさまじい。
「替え玉ブラヴォー!」で注目した天野はなが出ていたが、和風美人ながら地味な顔立ち(失礼・・・)の彼女、実はベフォー/アフターともに特殊メイクだったそうで、そのこだわりに驚いた。
天野はな。この人もNHKがその才能を発掘し配信で飛躍する女優さんの一人になるだろう。
個性的、という点で活躍の場は広がっていくと思う。
美容整形業界の闇を描く本ドラマだが、それだけではない。軸になっているのは遠山クリニックの創始者であり会長の遠山新(渡部篤郎)とその娘・凛(実は養子)と文(実は新の本当の娘)による、父娘の愛憎劇だ。
こんな韓国ドラマにありそうなドラマチックすぎる展開、文章に書くと陳腐に感じてしまうが、Yuki Saito監督の手腕と特殊メイク、そして役者の熱い演技でぐいぐいと引き込まれていく。全8話はそれぞれ1時間超の尺だが物足りないほどだ。
また、毎回脇を固める役者によるサイドストーリーが重すぎて、本当にお腹いっぱいになってしまう。
先述した声優志望で遠山クリニックでの整形を決意した田中善子(山野はな)と、その友人の橘ひなの(影山優佳)の二人が大げんかをするシーン、感情の発露がすさまじく迫力あるぶつかり合いで、山野はなの演技も素晴らしいが、影山優佳などは鼻水垂らしながら鬼の形相で怒鳴りわめくところは、アイドルの過去は捨てて役者として生きていく決意を感じた。
自分を抑えて家族のために生きる平凡な主婦を演じる野呂佳代と石田莉子の母娘のストーリーも、静かながら感動を呼ぶ。野呂演じる小澤 真海は、夫に抑圧されて生きてきたが娘・美奏(石田莉子)に背中を押されて美容整形を受ける。女性器形成という人に言えないセンシティブな部分の整形もあるのだとこのストーリーで知った。名バイプレイヤーの野呂と若い石田の演技が素晴らしかった。
文の母親・妙子を演じた永作博美もさすがだ。家族や娘を愛する母親の愛情が、やがて自分を押しつぶし酒に溺れて自滅していく様は、鬼気迫る。かつての夫が遠山新であり、文が新の実の娘であることを隠しながら生きて来た人生が分かった時、一人の女の中に強さと弱さが同居していて、その人生を切なく表現する永作の演技力を知る。
まだある。美容外科を毛嫌いしていた文は、家族の借金を肩代わりしてもらう代わりに凛のスカウトに応じて遠山クリニックに入るが、その文の患者となるキャバ嬢・板井沙緒里を演じた安達祐実。特殊メイクで誰かわからなかったほどだが、離婚して幼い息子と面会するために美容整形に依存していく壮絶な生き様を安達祐実が熱演している。こちらも涙無しでは観られない。
このほかにも長年夫に尽くして死別した後に、末期がんでありながら自分が自分らしく生きるために美容整形を決意する老女・坂下ゆり子に研ナオコ、凛の施術により失明し、それを理由に凛を脅すが満たされない自己に苦悶する資産家令嬢・鴻池沙良にKoki、冒頭で文の運命を変えるインフルエンサー・かなぶんに景井ひな、とそれぞれがそれぞれの事情で美容整形を受け入れた人生を演じている。
このドラマは美容整形の世界を題材にしながら、男性とは違った女性特有の美に対する感覚や、親子、家族の血のつながり、絆を濃密に描いているのがわかる。遠山新、凛、文の3人の愛憎劇だけでもお腹いっぱいなのに、あまりに多くの重いエピソードがちりばめられているので、しっかりと腰を据えて観るべきドラマといえる。
クライマックスの文と凛の対決シーンは見もの。2台のカメラで一発長回しで撮ったということで、緊迫感あふれる名シーンだ。また松岡茉優の提案で監督と議論して変更した設定(遠山クリニックのパンフレットを凛に渡して、文が事故で変形してしまった自分の顔の整形を凛に依頼する)も、説得力があって素晴らしい。
美容整形業界という誰もが興味のある題材を提示して視聴者を引き寄せ、その実見せるのは濃密な親子の愛憎劇であり、文と凛という水と油のような存在の二人が、お互いの信念を変えてまで大切にしたかったものが何か、を考えさせてくれる。
色々書いたけど、松岡茉優と仲里依紗が本当に素晴らしかった。
松岡茉優の空虚を映し出すような黒目は彼女の魅力だし、仲里依紗の美と強さに同居する儚さ、脆さは彼女独特の魅力である。
仲里依紗の迫力はすごかった。渡部篤郎のラスボス感も半端ないが。
松岡茉優の大きな黒目が好き。笑うと線になる眼は、大きく見開くと深淵を覗くような黒い目がそこにある。
上述の出演者以外でも豪華なバイプレイヤーがそろっている。
小宮 ルイ(遠山クリニック副院長) 間宮祥太朗
轟 菜々実(看護師)田中みな実
疋田 文男(医師) 礼二(中川家)
高階 義信(元刑事) 篠井英介
井上 俊介(顧問弁護士)田村健太郎
鴻池 忠士(資産家) 大和田伸也
沼田 高志(文の継父) 増子直純
沼田 尊(文の弟) 武田創世
槇原 廉(闇金の取り立て屋)萩原利久
遠山 美紀(新の妻) 泉里香
伊東 リリ(凛の同居人)シシド・カフカ
安東 宗太郎(MBC院長) 城田優
東城 晋一(文の勤務医時代の同僚医師) 渡辺大知
柊 琴未(人気声優)小倉唯
大橋(文の患者) 本多力
宝田 萌乃(キッズインフルエンサー)古川凛
大倉 朔太郎(都知事) 風間俊介
ヲ蔵ちゃん(インフルエンサー) 長井短
田中 知恵(善子の母) 竹下かおり
工藤 浩史(声優学校の先生) 板橋駿谷
ディレクター濱口 森優作
宝田 孝明(萌乃の父) 丸山智己
宝田 茜(萌乃の母)キタキマユ
宝田萌乃の叔母 赤間麻里子
南 克哉(芸能事務所社長)橋本淳
小田鳩 さゆり(遠山新の母) 中村映里子
PTA役員会長・江川 青木さやか
ホストA 若葉竜也
板井が訪れた文房具店の店員 杉咲花
遠山新に物件を見せる不動産屋 眞島秀和
監督は「アンメット ある脳外科医の日記」も撮っており、その時の主演だった杉咲花と若葉竜也がそれぞれ役名の無いままでちょい役で出演している。眞島秀和も「おっさんずラブ」シリーズに出ていたからだろうか。
Netflixのドラマは毎回楽しみにしている。一つとして同じような作品はないし、新たな発見と感動をくれる。次はどんな世界を見せてくれるのだろうか。



