最近どん底のフジ。「波うららかに、めおと日和」「嘘解きレトリック」は良作だったが、そのほかは見る影もない。

しかし、本作はベテラン脚本家の井上由美子が真面目に作った、本格派のドラマで佳作だった。

キャストもフジにしては珍しく華を追わずに実力派を揃えていて、俳優陣の演技もドラマの質を高めている。

 

主演は小池栄子と北香那。

小池栄子は近年の女優としての成長著しい。ひと昔前の女優といえば皆身長も高かったのだが、最近の若手女優はなぜか皆小柄だ。そんな中で元刑事として暗い過去を持つ黒木夏美海を演じる小池栄子は、167cmと画面映えする。そして何よりコメディも今回のようなシリアスも安定感がある。ドラマの根底に流れるテーマをしっかりと表現した抑えた演技が光っていた。

バディである公認心理師兼臨床心理士の白石絵梨子を演じるのは北香那。NHKの「替え玉ブラヴォー!」で好演した彼女も、コメディもシリアスも丁寧な演技で好感が持てる。特に今回の白石のようなちょっとコミュ障なオタクな感じを演じたら絶品。

 

脇を固める俳優陣はドラマファンが喜ぶ豪華絢爛さだ。フジもやればできるじゃない、と思う。

黒木と白石の上司である、刑事課 犯罪被害者支援室の田村に戸田恵子。懐の深い上司役がよく似合っていた。

黒木の元同僚の刑事たちに、眞島秀和、岡山天音、荒川良々、濱尾ノリタカ、味方亮介、そして利重剛といい面々。

特に味方、濱尾、眞島の3人の刑事はそれぞれ個性が強くていい塩梅。

白石の大学の教授に岡部たかし、暴力団の組長に浅野和之、そして元黒木の上司である事件で行方不明になった刑事山崎に渡部篤郎と来たもんだ。

 

良い脚本家、良いキャストがばっちりそろった。そしてテーマは犯罪被害者支援室の元刑事と臨床心理士がタッグを組んで、犯罪被害者の初期支援を行うというもの。これだけ揃えばよほどのことが無い限りは駄作にはならない。

フジもこういった作品をもっと作るべきと思う。

 

全11話で一話完結。基本的に犯罪や事故が発生した後に、被害者の心のケアをするというストーリーなので、派手な展開は一切ない。NHKのようなヒューマンドラマである。だからだろうか、ドラマファンの間では評価が高かったのに視聴率や再生回数では苦戦したようだ。

 

各話のゲストも多彩。第1話では北乃きい、第2話は今泉祐唯、第3話は神野三鈴、第5話は佐久本宝、おかやまはじめ、第6話は恒松祐里、第7話は三河悠冴、第8話は鶴田真由、長谷川朝晴、第10・11話に中村里帆。

 

印象に残った話は、第3話の神野三鈴が不慮の事故で亡くなった息子が、生前女性として生きていたことを知り、最初は受け入れられず息子ではないと言い張っていたが、黒木と白石の支えにより最後は息子の死を受け入れたお話。

そして第7話の自分を上手く表現できず、女性と向き合うことができない青年を、白石が粘り強く接し一歩を踏み出せるきっかけを作ったお話。

 

三河悠冴。非常に特徴ある顔つきで、今回の役のようなクセ強なキャラが良く似合う。

吉村界人と並んで、バイプレイヤーとして好きな役者さん。

 

性格も歩んできた道も全く違う黒木と白石の2人が、最初は衝突しながらも徐々にお互いを認め合い、やがてかけがえのない存在として共に成長していく姿が清々しい。

こういった展開が陳腐なものにならないのも、実績のある井上由美子の匠の技と、小池、北両人の高い演技力に支えられているからだ。ほとんど派手な展開の無いストーリーで、2人の会話や感情表現によって物語に奥行きが感じられた。

 

そしてもう一人、このドラマで存在感を放っていたのが鴨居刑事を演じた岡山天音だ。妹が変質者に誘拐された末に自殺するという暗い過去を持っている。いわくつきの人物を演じて爪痕を残した。白石演じた北香那との息の合った演技も良かった。

 

犯罪被害者のみならず、主要な登場人物のそれぞれが暗い過去=闇を心に秘めている。タイトルの「さよならノワール」にあるノワールとは、そういった心の暗い闇を意味していて、黒木と白石の活動がまさに心の闇にサヨナラするためのお手伝いなのだ。

 

最終回では所長である妹尾(利重剛)が関与した悪事が明るみになり、山崎はその悪事を追って事件に巻き込まれ、記憶喪失となり失踪する。

妹尾は警察の対面を守るという、警察官としての職務を全うするために自分の娘を犠牲にしてまでも、自らの罪を封印しようとした。一方で、黒木は失踪前に山崎に急に呼び出されて娘を一人残して家を飛び出し、結果、母親を探して家を出た娘が事故に遭い重症を負ったせいで離婚に追い込まれた。彼女も警察官としての職務を全うしようとしたが、その動機は妹尾をは全く正反対のものだった。

 

それなのに結果は同じ、二人とも心に闇を抱えることとなる。

なんとも理不尽なのだが、人生というのはそういった理不尽の積み重ねでできている。犯罪被害者というのは事件に巻き込まれてからずっと、そんな理不尽と闘い続けているのだ。最終話のエピソードは、そういった理不尽で生まれた闇を抱え続ける被害者のことを少しでも理解しようという、このドラマのテーマが詰まっていた。

 

決して派手ではなかったが、心に残る良作だった。

そして、フジのドラマもまだまだやれるんじゃないか、と。

 

北香那と小池栄子。

演技達者な二人のバディをまた観てみたい。