推しの土村芳が出演している、というだけで観始めたこのドラマ。
夏ドラマは豊作で並行して8本も観ていて、それほど期待していなかったのだが、いやいやどうして今クールでも一番の秀作だった。その割にネットでは全然話題になっていないのが不思議なほどだ。
NHKの医療ドラマは骨太である。民放のそれとは格が違う。今回のドラマでもそのことがあらためて心に刻まれた。
原作者の夏川草介は真面目に現代の日本の医療問題を考え課題提起をしており、NHKはそれを安っぽくなくしっかりと丁寧に、良い役者で作りあげている。
過疎化と医師の都市部集中による地域医療の衰退、そしてすべての日本人の問題である「いかに死ぬか」というテーマが全編通じて展開される。重いテーマではあるが決してドラマチックに描くことなく、医療現場の医師や看護師の日常をリアルに、時に肩の力を抜いた演出で見せ、観る側を疲れさせない。ベテラン・羽原大介の脚本も良かった。
長野県安曇野市の梓川病院と言う病院が舞台。ここは高齢者が入院してくるケースが多く、決してすべての入院患者が助かるわけではない。同じNHKの「おわかれホスピタル」を思い出す。そこでは終末医療のホスピスが舞台であったが、この梓川病院は普通の民間病院だ。そこでは現代日本でよくみられる、寝たきりの高齢者への胃ろうなどの措置による延命治療が行われている。
主人公の看護師・月岡美琴を演じる福本莉子と、研修医の桂正太郎を演じる菅生新樹が物語の中心。吹越満(三島医師)、内藤剛志(谷崎医師)、本田博太郎(院長)ら、そして土村芳(主任看護師・大滝)、田辺桃子(看護師・沢野)、野波麻帆(看護師長・和田)、半崎美奈(白川れい)、美琴の母に富田靖子と、さすがNHKの布陣。
手塚治虫の不朽の名作「ブラック・ジャック」は、世代を超えて愛され語り継がれているが、そこで一貫して描かれていたのは、人の命の尊さと儚さ、そして医療の限界であった。MATTは小学生の時に「ブラック・ジャック」と出会い衝撃を受けた。命と向き合う医者の覚悟と絶望、そして孤独を、手塚治虫が冷徹に描いていたからだ。
このドラマはまさに「ブラック・ジャック」が描いた世界を表現しており、生きるか死ぬかで感動する普通の医療ドラマとは一線を画している。
劇中で谷崎医師はまさに苦悩の中で日々治療にあたる医師の代表のような存在である。
彼と若い研修医・桂の魂のぶつかり合いは見ものだ。そして、谷崎が助かる命と助からない命を選別する一貫した姿勢は、過酷な医療現場の真実というだけではない、もう一つの課題を浮き彫りにする。
それは人間いつかは死ぬ、その時にいかに死ぬか、ということだ。
家で命を看取ることが少なくなり、病院で最期を迎えることが多くなった日本人の命への向き合い方を問われている。
北欧では無理な延命を施さず、寿命が来たら自然の摂理に任せるという考え方が主流であるとの話を聞いたことがある。
亡くなった母親は生前、「年寄りは寝込んで食べられなくなったら終わり」と良く言っていた。家で自分の祖父母を看取った経験があるから言えたのだろうと思う。だから母親は自分が意識不明の寝たきりになったら、さっさと逝かせてくれと話していた。
敢えて誤解を恐れずに言うと、生ける屍のようになって生き続けることは、本人や家族にとって果たして幸せなことなのだろうか。死というものを自分事と捉えず、病院に押し付けている現状は決して健全ではない。
内藤剛志はこの谷崎という医師を全身全霊で演じていて好感が持てた。日々苦悩しながあ信念を持って職務を全うする谷崎という医師を、抑えた演技の中にも人間臭く演じていて素晴らしい。
また、谷崎とは違ったポジションで桂を温かく見守り指導する三島医師を演じた吹越満も、最近円熟味を増してきたと思う。
内藤剛志。本ドラマにおける内藤演じる谷崎の存在は大きい。
看護師には土村芳、野波麻帆、田辺桃子と素晴らしいキャスティング。土村芳は出番はまあまあだったが、最近はこういった端役ばかりなので、もう少し主要なキャスティングで出てもらいたい。
野波麻帆はMATTの中では「おいハンサム!!」のシイナさんなのだが、彼女本当に美人で見とれてしまう。田辺桃子も美形だがそろそろ彼女ももっといい役での演技を見てみたい。
菅生新樹は兄の持つ鋭いナイフのような雰囲気が無く、とても親しみやすいキャラで今回のキャストにはぴったりであった。演技も決して派手ではないが、しっかりとしたセリフ回しで誠実さが伝わってきた。
福本莉子は、カメラワークと演出のせいか彼女の持つ清純さが際立っていた。彼女こそ朝ドラヒロインの筆頭と思わせるのは、まだ成長途上の雰囲気を持っているから。最近はある程度出来上がった女優さんのキャスティングが多いが、福本莉子は朝ドラを通じて大きく成長する、そんな期待を抱かせてくれる。
福本莉子。彼女の清純さを際立させるカメラワークが多かった気がする。。。
Wikipediaが貧弱なのでゲスト出演者などすべて網羅できていないが、おかやまはじめ、広岡由里子、平泉成、山下容莉枝、三浦貴大、六平直政らも出演。宇梶剛士はラスト近くに美琴の父親役で出演。
重いテーマに真っ向から取り組んだスタッフ、実力ある若手・ベテランの演者と確かな脚本・演出、そして美しい安曇野の景色など、非常にレベルの高い作品で心に残る良作だった。さすがNHKだ。


