月村了衛による小説が原作となったドラマ。おそらく、2018年の東京医科大学で起こった女子受験生を一律減点して女子の合格者数を捜査していた不正事件が下敷きになっていると思われる。
主人公は統和医科大受験を志す娘・麻衣子(豊嶋花)の母親でシングルマザーの新聞記者・檜葉菊乃(松本若菜)と、彼女がつかんだスクープである、女子受験生の合格者数捜査を行っていた統和医科大の理事・神林晴海(鈴木保奈美)の2人。そしてこの2人がお互いの正義をかけて、真っ向から対決するスリルあふれるドラマだ。
東京医科大の事件が起こった時、MATTは当然のごとくひどい話だと感じた。劇中の檜葉も同じことを感じ、ジャーナリストとしての正義感から、記事を書くことを上司の提案する。
しかし取材を進めていくにつれて、その正義が医療従事者の視点から見ると正義ではないことに気づかされる。
医療を志し、真剣に受験に取り組む女子学生たちの夢をないがしろにする行為自体は正当化してはならない。しかし一方で逼迫した医療現場では慢性的な医師不足が深刻化しており、結婚や出産で職場を離れたり、美容整形などの道を選ぶことが多い女性よりも、男性医師を求める声が強いのもまた一つの真実である。
この世の中は複雑にできている。ある者の正義はある者にとっては正義ではないこともある。そしてそれぞれの正義はそこに生きる者たちにとっては極めて正しくて、部外者がどうこう言うべきものではない。
だが、その正義が倫理的、道徳的に間違っているのであれば、やはり正すべきなのだということも、また一つの真理。
檜葉は、様々な壁にぶつかり、時に心が折れそうになりながらもその真理を信じて突き進んでいく。
決して強い女性ではない檜葉という役に、松本若菜をキャストしたのはさすがNHKである。芯にある優しさが時に邪魔をしがちな強気な女性を演じる時、彼女の魅力が最大化されると思う。
また彼女と対峙する神林を演じた鈴木保奈美も緊張感ある演技で魅了してくれた。神林という女性も檜葉同様に男社会の中で、一人孤軍奮闘してきた。正しく生きようとして、しかし抗えない大きな波に飲まれ翻弄されながら生きてきた。互いの立場と正義を盾に激しく火花を散らしながらぶつかる檜葉と神林だが、同じような生き方をしてきた二人だからこそ、分かり合うこともできた。
本作のタイトルは「対決」だが、檜葉と神林の対決だけではなく、さまざまな対決がドラマの中では描かれた。檜葉と男性社会のモデルのような新聞社の同僚たち。大倉孝二、山中崇、前野朋哉、濱尾ノリタカら演じる男性記者たち。前野演じる甲斐田は檜葉を援護する立場だが、山中演じる和藤は激しいモラハラ・セクハラを繰り返す。また、檜葉の娘の麻衣子との対決もあった。豊嶋花は母親と激しくぶつかりながらも、母娘の強い絆を感じさせる感動的な演技でさすがと思わせた。
神林も院内の男性医師や、同じ女性医師でも男社会の中で上手く立ち振る舞う北(高畑淳子)のような面々との対決があり、男性以上に社会で生きている女性は、日々様々な「対決」を経験しているのだと感じた。
だがドラマのラストで印象的なシーンがあった。
壁に鏡が据え付けられた廊下を歩く檜葉が、鏡に映った自分を一瞬一瞥する場面。すなわち、このドラマの描いた本当の対決は、檜葉の自分自身の正義との対峙だったということではないだろうか。
共演者は、大原櫻子、石坂浩二、渡辺いっけい、尾美としのり、石丸謙二郎、松金よね子、岩松了、渡辺真紀子、橋本淳、清水美砂、岩谷健司、綾田俊樹、片岡礼子など。また新井美羽も出演していたが、しっかりした演技をしていて今後も楽しみだ。
脚本は渡邊真子。「恋は闇」ではがっかりさせられてしまったが、本作は手堅くいいドラマになっていた。
松本若菜の魅力を最大限に生かした一作。良いドラマだったと思う。

