たまたま見つけたこの映画。
伝記映画というのはリアリティを持たせるため、俳優がいかに主人公に似せて演じることができるかが最も重要な要素といえる。
「ボヘミアン・ラプソディー」でフレディを演じたラミ・マレック同様、この作品でドナルド・トランプを演じた、セバスチャン・スタンの演技力に拍手を送りたい。
しゃべり方、口調、細かな表情や仕草、発声にいたるまで完璧だ。ラストシーンでは鼻で空気を大きく吸い込む癖なども上手い。
その他の登場人物たちも、著名な実在の人物は完璧なまでに本人に寄せたキャストになっている。
以前、ハリウッドでは端役に至るまで綿密にキャストされ、エキストラやモブキャラさえもオーディションがあり、熾烈な世界と聞いた。日本では考えられない環境で、それだけ数多の才能が存在しているということなのだろう。
2時間弱の映画だが、脚本・演出がしっかりしていて飽きさせないし、テンポも良い。
いい脚本にいい役者がそろって仕上がっている。
伝記モノとしてもエンタテインメントとしてもお勧めの作品だ。
また、本作をより良く楽しむにあたっては、アメリカの歴史や政治の世界(冒頭でニクソンが出てくる)をよく勉強して知識を得てから観ると、もっと様々な角度からの考察ができよう。
「怪物」は、最初から怪物で生まれてきたわけではない、というのは歴史が証明している。
誰もが生まれた時は無垢な存在だ。
どういった家庭に育ち、環境で生き、誰と出会い影響を受けたか。
また、その人物がどれだけ有能か。すなわち、自分が大きく成長するためにいかに誠実で、誰の言うことを聞き、完璧に真似をし、自らの内に取り込み自身の栄養とするか。
ドナルド・トランプは怪物になる素養を持った人間だった。
若く、誠実な男だったドナルドは、ある日、ロイ・コーンという悪魔的な男と出会う。
ドナルドが真に有能だったからこそ、彼はロイ・コーンという男を信じ、完璧に真似をして内に取り込んでいった。
こうしてドナルド・トランプという怪物ができた。
一方で、厳格で独裁者の父、自分が最も軽蔑する生き方を体現している兄がいる家庭環境も、怪物への成長を促進させたのかもしれない。
映画を通してわかったこと、それは彼はただひたすら誠実に生きている人、ということだ。
自分「だけ」に誠実に生きている。これは間違いない。
彼の言う正義や真実は、彼だけが信じる正義であり真実だ。
それは持って生まれた彼の性格なのだろうか。
そこにロイがドナルドに説いた「3つのルール」(現在のトランプの行動原理になっていると思われる)に、ピタッとハマったからだろうか。
真実はわからないが、今アメリカを、世界を混乱に陥れているドナルド・トランプの様々な行動、言動は、この映画を観ると、妙に腑に落ちて納得することができる。
彼は自分の信じる誠実さのために生きているだけなのだ。
そう考えると、彼を非難するのはバカバカしくなる。
非難するよりも大事なことは、アメリカの大統領は慎重に選ばなければいけない、ということを、アメリカ人はもう一度よく考えてみることだ。
