一昨日観たが色々忙しくてupできていなかった。。。
三谷幸喜脚本で、監督は中原俊。ピンク映画出身の監督はしっかりした画を撮る人が多いという印象。
アマプラは古い名作もやってくれるのが嬉しい。
三谷幸喜作品は過去にそれほど見た記憶がない。
特に好きなわけでもなく、嫌いでもない。
「王様のレストラン」は非常に良いドラマだったと思う。
タイトルから想像つく通り、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」へのオマージュ的な作品。不朽の名作でとても感動したのは覚えているのだが、ずいぶん昔に見たっきりなので細かいところの記憶がない。
ちなみに映画公開当時には日本に陪審員制度はない。2009年に導入されたが、まさか日本にも陪審員制度ができるとは当時の人は思わなかったろう。
本作は舞台を映画化したということだが、いわゆる三谷組の俳優陣が分厚い演技で盛り上げる。公開は1991年。バブル崩壊直前の日本は昭和文化が頂点に達していた頃だろうか。
セクハラ、パワハラ、モラハラ、喫煙、飲酒、男社会、、、なんでもありでMATT世代は懐かしいが、Z世代が見たらどんな反応をするだろうか。
「十二人の怒れる男」は、状況証拠から少年の有罪を信じて疑わなかった陪審員たちを、ヘンリー・フォンダ演じる主人公が熱意を持って、事件の再検証に議論を導いていく姿が感動的だった。古き良き時代のハリウッド映画のひとつ。
三谷幸喜はこの名作をベースにして、日本人の国民性をシニカルに取り入れながら極上のコメディに仕立て上げている。
陪審員全員がやる気なく被告人無罪と決めつけて早く終わらせようとするが、ヘンリー・フォンダよろしく一人だけ敢然と無罪に疑問をなげかける陪審員2号(相島一之)。
その声に一人、二人と耳を傾けていく。まったく我関せずを決め込む者、自分の意見を持たない者、風見鶏のように多数意見になびく者、そもそも議論すらできない者。
日本人の縮図がそこにあるが、観たものは皆自分に置き換えたり、過去に会議や会合などに参加した時のことを思い出すのではないだろうか。
ちなみに陪審員を演じるは以下の俳優たち。
現在でも活躍している俳優さんもいれば、鬼籍に入ってしまった方も。
相島一之はもとより、塩見三省とか、上田耕一、山下容莉枝、梶原善、大河内浩とか若い。
豊川悦司なんかもまだあんちゃんだ。
若い近藤芳正は、ピザの宅配員だった。
陪審員1号 塩見三省
陪審員2号 相島一之
陪審員3号 上田耕一
陪審員4号 二瓶鮫一
陪審員5号 中村まり子
陪審員6号 大河内浩
陪審員7号 梶原善
陪審員8号 山下容莉枝
陪審員9号 村松克己
陪審員10号 林美智子
陪審員11号 豊川悦司
陪審員12号 加藤善博
三谷幸喜脚本らしい、個性豊かな12人がその個性を存分に発揮する群像劇がこの作品の鑑賞ポイントであるのは間違いないが、個人的にはこの12人が「本当の議論」をしていたのが印象的だった。
MATTも日本人の典型で、会議によっては全然意見を言わないでいてしまうことが多い。
日本人は無駄な発言を嫌う。この一言で議論が拡散してしまい、収拾つかなくなったら、、、などと忖度して発言を封じ込める。
一方で海外では日本人なら絶対言わないような発言が飛び出て、驚くこともある。
大半の日本人は「んなこと今、言ってもしょうがないだろう」と冷たい視線を送る。
しかし会議、議論というのは本来は参加した以上、まずは自分の意見を述べるべきなのだろう。十二人の陪審員も、建設的意見に紛れて一見、全然的外れな発言のようなものが出てきたりする。だが、それが議論を活性化させたり次なるヒントに結びついたりする。
無論、フィクションの世界なのでそういう風に物語ができているのだが、でも議論の本質を表していると思う。
ただ、そこには放言する人ばかりではだめで、優秀なファシリテイタ―が必要だ。
この映画では、知見が豊富で論理的な豊川悦司や、常に冷静で公平なリーダーシップを発揮する塩見三省のような人だ。
まあ、そんなことはともかく、純粋に個性あふれるキャラクターが、どこに行くのかわからない議論を最後はスッキリとまとめ上げる過程を存分に楽しめる作品。
「十二人の怒れる男」と違い、無罪で始まり無罪に落ち着く、だけどそこには全員が議論に参加し、無罪を主張するためにみんなで納得いく筋書きを作り上げたという、達成感がある。
そして、相沢演じる陪審員2号がヘンリー・フォンダのようにかっこよく皆に議論をよびかけたのは、実は自分の私生活に起因する極めて個人的な感情によるものだった、というオチもいい。
最後に、一人一人裁判所を後にする各陪審員晴れた表情とともにクレジットが流れる。このラストシーンが粋でいい。
90年代の三谷幸喜作品は勢いがあったと思う。最近ちゃんと観ていないのでわからないけど、ネットでの評判はあまりよくない。今度ちゃんと自分の目で確かめてみようと思う。
