乃木坂太郎による原作の漫画は大変人気だったよう。
その人気作品を、あの堤幸彦が撮ったというではないか。
しかも、柳楽優弥と黒島結菜の共演だという。
この二人といえば、2014年のドラマ「アオイホノオ」で焔モユルと津田ヒロミ役で友達以上、恋人未満な役が印象的だった。その二人が主演というのが実に興味深い。
黒島結菜。当時17歳。無邪気な美少女役でこの子は売れると思った。
更にいうと、MADホーリィ役の佐藤二郎まで友情出演だ 笑
それはともかく、柳楽優弥という役者の底知れぬ人間臭さを堪能できる作品として、見ごたえがあった。彼の演技は毎回新鮮な驚きに満ち溢れている。
今回猟奇殺人犯・品川真珠を演じたのは黒島結菜だが、華奢な美少女の殺人犯というビジュアルは申し分ないのだが、内面からにじみ出る異常性を演じるにはちょっと弱いかな、と感じた。
古川琴音とかだと最高なのだがと思っていたが、結末を見てなるほどと納得。
黒島結菜の演技も、つじつまが合う。すっかり騙されてしまった。
狂気の中に無垢が存在するのが真珠だとすると、演じたのは黒島結菜でよかった。
オープニングから死体損壊現場や、不気味なピエロ姿の女など衝撃的なシーンの連続。
黒島結菜演じる品川真珠は「踊る大捜査線」で小泉今日子が演じた猟奇殺人犯を彷彿とさせるし、太ったピエロはアメリカの快楽殺人者のジョン・ウェイン・ゲイシーを意識しているような演出で、凝っている。
ちなみに、あるシーンで大きなプラ瓶に入った柿の種が出てきたのは、堤幸彦作品のファンには嬉しいお遊びだった。
柳楽優弥演じる児童相談所職員の夏目アラタが、被害者の男性の息子から依頼を受け、真珠の弁護人である宮前光一(中川大志)とともに拘置所の真珠と面会するところから物語は始まる。
この作品の面白いところは、滑り出しは猟奇殺人犯との対話というサイコスリラーの装いなのだが、途中からは真珠が本当に殺人犯なのかという推理ものの様相も呈してきて、巧みなストーリー展開に、謎が謎を呼ぶ構成も観る者を惑わせる。
そして、徐々に真珠の心の内が見えてくるとともに、夏目アラタが気づいていなかった自分の気持ち、本当の自分もあらわになっていく。
良い母親になろうと頑張り過ぎた結果、心が壊れてしまった母親(藤間爽子)と、彼女によって過酷な運命を背負わされてしまった真珠。
そして自らも不遇な人生を歩み、知らぬ間に誤った正義を身にまとって生きてきたアラタ。
無垢に自分を愛してくれる人を探していた女と、同情ではない本当の愛を知らなかった男が出会い、互いに惹かれていく。
まるで万華鏡のように作品のテーマが変化していき、実は切ないラブストーリーを見せつけられる驚き。
共演者は多くはない。
丸山礼、立川志らく、福士誠治、今野浩喜、平岡祐太、市村正親など。
最近の映画はエンドロールが終わるまでちゃんと見ないといけない。
本作も、エンドロールの途中であるシーンに切り替わる。
それは作品を注意深く観ていると簡単に気づくのだが、アラタが真珠に話した、なぜ児童相談所職員になったかの答え、昔、とても可愛そうな女の子を見かけ声をかけたという場面だった。
そして、その女の子こそ幼い頃の真珠であり、雨でずぶぬれの真珠にハンカチを渡してあげたのはアラタだった。そして真珠の特異な嗅覚により、彼のことを覚えていて、面会の時に匂いをかいで、アラタだと気づいていたというオチ。
これはこれでちょっと怖いエンディングだった。
最後の最後まで気の抜けないストーリー。
柳楽優弥の期待を裏切らない演技。見ごたえのある作品だった。

