黒沢清の初期の作品がアマプラでupされていたので、早速観てみた。

 

公開された1992年といえばバブル崩壊後。

予算の無い中、30代そこそこの若い黒沢清がどんな苦労でこの映画を作ったかは、神の身ならぬMATTにはわかりようもないが、この頃から黒沢映画の幹はできていたのだな、ということは理解できた。

 

ストーリーがあるかと聞かれると、う~ん、、、、。

物語性よりもただただ恐怖を描いたと言えばそうだ。

でも黒沢映画の醍醐味である、ヒタヒタと忍び寄ってくる得体の知れぬ恐怖は、しっかりと感じることができた。

 

その恐怖が何かというと、過去に殺人を犯したが精神鑑定結果無罪になり、警備員となって主人公の会社に配属される富士丸という元力士。

この富士丸を、若き日のゴローさん松重豊が演じている。ゴローさん松重豊は、ただただ低い声でぼそぼそ呟き、ただただこん棒持って人を叩き殺すだけなので、演技というものでもなさそう。

全体的にこの作品、低予算のためかやたらとセリフが聞き取りづらい。

日本映画全般がそうであるように、セリフを聞こうと音量上げたら「ばばば~~~ん!!!」と、効果音が鳴り響き、びっくり。

なんとかしてほしい。

 

若き日のゴローさん松重豊。

「腹が、減った・・・」とは言いません。

 

主演の成島秋子に久野真紀子。この女優さん、その後あまり売れなかったようで名前を聞かない。

美人かというと、角度によってはそう見える不思議なお顔で、どちらかというと同僚の女性を演じた由良宣子という女優さんの方が美人だ。

そもそもこの作品でもホラーのヒロインなのに、犯人の富士丸(ゴローさん松重豊)から狙われる割には全然活躍しないし、最後は当時のトレンディドラマといえばこの人、長谷川ショパンこと長谷川初範が勇猛果敢に?富士丸と闘って勝利するのだ。

 

海外では1979年に「エイリアン」でシガニー・ウィーバーがエイリアンと最後まで死闘を繰り広げる宇宙飛行士を演じ、女性が活躍する未來を大胆に描いたのとはエライ違い。

作品中でも成島さんは、大杉漣演じる上司からセクハラ、パワハラ受けまくりだがじっと耐え忍ぶ。

令和の今なら大杉漣さんは、あっという間に離島送りだ。

昔の大杉漣は、こんな怪しい役が多い。2006年の園子温監督の「エクステ」での怪演が記憶に残る。

 

97分の作品だがラスト30分以外は、黒沢清ファンでなければ辛い時間だろう。

暗い絵にボソボソしゃべる人たちしか出てこないからだ。富士丸もあまり動かない。

ラスト30分は怒涛の展開になるので、まあまあ楽しめるか。

でも結局富士丸が何者だったのかよくわからないまま自殺してしまい、そのまま終わりというトンデモな展開。

まあ、でもよいのです。そういう映画なのだと思って観る作品なのです。

 

成島の職場は絵画を買い付ける仕事をしているので、バブルの頃に流行った海外の有名画家の作品などが出てくる。

途中、富士丸が人を殺すシーンで壁にかかってあったリトグラフは、フランシスコ・デ・ゴヤの「わが子を食らうサトゥルヌス」。

有名な絵画だが、黒沢清らしい演出で実に効果的な使われ方だった。

黒い影を多用した映像も、この5年後に撮られた名作「CURE」にもつながってくるもので、黒沢ファンとしては興味深い。

 

ゴローさん松重豊はじめ、役者さんも当たり前だが皆若い。

諏訪太郎、内藤剛(すぐ殺される)、洞口依子、緒方幹太(緒形拳の息子)らが脇を固める。

 

これは正直、黒沢清ファン以外は観てもちっとも面白くないだろうと思う。

そういう意味ではカルト的作品ともいえるだろう。