原作は瀬尾まいこ。映画にもなった「そして、バトンは渡された」が有名だが、永野芽衣・田中圭があんなことになってしまったので、残念だ。
監督は「ケイコ目を澄ませて」の三宅唱。静かな画の中に、人間の繊細な心模様を表現するのが上手い監督だ。
主演は松村北斗と上白石萌音。二人の共演は「カムカムエブリバディ」以来だそう。
上白石萌音の作品はこれまで観る機会がなく、あまりなじみがない。
どちらかというと、妹の萌歌ちゃんの作品の方が馴染み深い。
萌歌ちゃんの真っすぐな演技は大好きなのだが、姉の萌音ちゃんはさすがというか、演技の質の高さに圧倒される。
萌音ちゃん演じる劇中の藤沢美紗は、日常生活に不便を感じるほどの重いPMSなのだが、細かいところまで丁寧に演じていて、まさに藤沢美紗という人間の人生を生きているかのよう。彼女の演技があって、初めてこの映画が成り立っている。
それほどの迫真の演技だ。
松村北斗が演じる山添も、パニック障害のため出社できなくなり、前の職場を辞めてプラネタリウムなどのキットを作る栗田科学という会社に転職し、そこで美紗と出会う。
最初はお互いに「苦手なタイプ」という認識だったが、徐々に距離が近くなっていき、やがて互いに支えあう存在となる。
世の中には他人に理解してもらえない病気の人が多数いる。
外から見てわかる症状ではないため、第三者からは「怠けている」「変な人」「めんどくさい」などと理解してもらえないどころか、厄介者扱いまでされる。
その苦しさはいかほどだろうか。
この映画の良いところは、過剰に悪い人・嫌な人の描写や、やたら押しつけがましい優しさが描かれないところだ。
どこにでもある日常と普通の人たちの中で、山添を美紗が少しずつ(ぶつかりながらも)お互いを理解し、思いやりあいながら生きていく様子が静かに描かれる。
そういった人を見る優しい眼差しは、三宅監督の真骨頂かもしれない。
光石研の中小企業の社長役は、まさにはまり役。
久保田磨希、宮川一朗太、丘みつ子、梅舟惟永、内田慈、渋川清彦らの実力ある役者に加え、藤間爽子、芋生悠ら若手実力派女優も脇を固めている。
芋生悠。彼女の面白いところは演じる年齢の幅が広いこと。
この映画では、かなりお姉さんに見えるメイクと演技。
実はまだ27歳。なんと萌音ちゃんより一つ上なだけ・・・・
美紗の母親役にりょうが出ていたが、きつね顔のりょうの娘がたぬき顔の萌音ちゃんってのもなあ、、、笑
そういえば、車いすに乗った母親とその娘、では「日曜の夜ぐらいは…」の和久井映見と清野菜名の親子は逆に、たぬき顔の母ときつね顔の娘だったっけ。。。
劇中後半に簡易型のプラネタリウム設備が出てきて、物語のクライマックスに重要な役割を果たしている。
宇宙では変わらないものなどない。
夜だっていつかは明ける。人間だって変わっていく。
今が辛く苦しくても、きっといい明日がくる。
頑張れというのは簡単だけど、頑張れない人たちにも、精いっぱい生きている限りいいことがある。
山添も美紗も、前向きに生きていく中で出会いがあり、そこに生きる光を見つけた。
決して大きな一歩ではないが、大切なのはそういった小さな変化なのだろう。
プラネタリウムといえば昔、故郷の大阪で実家のあった四橋筋に大阪市立電気科学館というのがあった。家から歩いて10分くらいのところにあったので、子供の頃よく行った記憶がある。昭和の終わりに閉館して、今は大阪市立科学館となり中之島に移転したようだ。
映画を観て、久しぶりにプラネタリウムに行きたくなった。