MATTにとってのサカモトさん、は坂元裕二だったが、最近は本作の監督・脚本の阪元裕吾かもしれない。坂元裕二が20代でヒット作を連発したように、阪元裕吾もまだ20代ながら「ベイビーわるきゅーれ」で才能を爆発させた。
奇しくも二人とも大阪出身というのも興味深い。
その阪元裕吾がアクションではない映画を撮るというので、前から観たかったこの作品。
石黒正数原作で女子大生二人の日常を描いているのだが、その設定が「ベイビーわるきゅーれ」とモロ被り。
主人公の入巣柚実を久保史緒里、鯨井ルカを平祐奈が演じている。
物語冒頭の大学寮の部屋での二人の生態や会話がまんま、ちさと&まひろなのが、阪本ワールド爆発ですんなりと入っていけた。
だが最初の30分は二人の緩い日常が淡々と綴られていくので、このお話はどこに行くのだろうという不安と、なかなか話が前に進んでいかないじれったさが勝ってしまう。
でもそれは「ベイビーわるきゅーれ」を最初に観たときもそうだったかもしれない。
最初はちさと&まひろのやり取りのとりとめのなさに戸惑いつつも、やがてそれが心地よい時間になっていく。久保史緒里と平祐奈の掛け合いが徐々に馴染んでいく過程は、ちさと&まひろのそれと同じだ。
30分を超えたあたりから登場人物も増えてきて、物語が動き出す。
阪元裕吾の軽妙かつテンポのよい脚本で、スピード感が出てくる中盤以降はぐいぐいと物語に引き込まれていく。
インディーズバンドのボーカルで劇中では元気な歌声も披露する平祐奈。
とてもいい声をしていて、本当に歌手でもやっていけそうな感じ。
久保史緒里は現代のリアルな女の子をきちんと演じ切っていて、ルカとのコントラストも映えたキャラ作りもよかった。
平祐奈。
お姉さんも美人だが、彼女も相当に整った顔立ちをしている。
とても実力のある女優さんだから、もっと活躍してもらいたい。
ルカは史緒里との生活や所属バンドのピートモスのメンバーとの活動を捨てて、念願のメジャーデビューを果たすが、企画もののような可愛い謎キャラとして、歌う姿はアイドルのよう。
ある日、史緒里はルカからコンサートのチケットを受け取る。会場に行くとそこにはピートモスのメンバーの姿も。ルカの歌う姿を観ながら、史緒里にはそれがルカの本当にやりたかったことには見えなかった。
アンコールになり、再び舞台に現れるルカ。手にはギターを携えている。
突然歌い出したのはピートモス時代の「ネムルバカ」。
実はこの曲はルカの作品ではなく、史緒里の寝言を元に作った曲であることを、史緒里は以前ルカから聞かされていた。ルカは突っ走ってきた自分だったが、実は自信がなかったのだという弱音を、はじめて史緒里に見せたのだった。
曲を聴きながら涙を流す史緒里。ルカは自分を失ってはいなかった。
歌い終えたルカは小さく、元気でな と呟くと満員の会場から走り去って、そのまま失踪してしまう。残された史緒里は充実感を感じながら笑顔で泣いていた。
学生の日常というのは時代が変わってもそんなには変わらないものだ。
柚実とルカの悩みやモヤモヤは何十年も前のMATTも感じたものであり、多くの若者が答えやそれらしいものを見つけられないまま、社会人になっていく。
そしてそれは繰り返される。
コンサートのその後のシーン、史緒里は依然大学寮で暮らしているがそこには後輩・アキラ(志田こはく)の姿が。そしてルカと史緒里がそうであったように、二人の間にも同じようなゆるい日常がそこにあった。
史緒里はこの後、どういった人生を歩んでいくのだろうか。そして後輩のアキラも。
必死に夢に向かって生きるルカも、人生迷いながらも何も見つけられない史緒里も、まだ若い。若さこそが無限の可能性、ということにあらためて気づく。
そんな映画だった。
阪元裕吾作品らしく物語の面白さで勝負し、無名ながらも実力ある役者しか出てこない。
名のある役者というと、水澤伸伍(ちょい役)、吉沢悠くらいだろうか。
でもそのスタイルは貫いてほしいと思う。
でも売れて有名になってくると、それは無理かな、、、、、