NHKのプレミアムドラマ枠は、TVドラマの狭い定義にはこだわらず、様々なテーマや形で名作を生んできた。特に2021年以降は心に残る作品が多数だ。
そして、高齢女性のシスターフッドな生き方が爽快な本作も、新たな名作となったと思う。
原作は井上荒野。タイトルでもうこれは「テルマ&ルイーズ」のオマージュだとわかってしまう。(映画は名作なのだが、実はまだ観たことがない・・・・)
風吹ジュン、夏木マリという二人のベテランがこの作品を深みあるものにしたのは間違いない。味わい深く、ペーソスにあふれ、そして二人ともキュートである。
脚本は大九明子。この人の作品はドラマも映画も好きだ。今気づいたが同い年で大学も一緒だった。学部はMATTが法学部で彼女は政経学部だが。
照子に風吹ジュン、瑠衣に夏木マリ。
それぞれ見た目も性格も異なる二人だが、学生時代からの大の親友。
瑠衣は歌い手としてそれなりに有名な存在だったものの最近はやや落ち目に、照子は高給取りの夫と裕福な生活を送っているも、関白な夫との生活に不満を持っている模様。
そんな二人が久しぶりに出会い、昔の友人関係のノリで今の生活を抜け出して無謀な逃避行に出てしまう、というストーリー。
高齢者の人生、女性の自立と自由、女同士の友情と、実は様々なテーマが盛り込まれながらも次から次に迫りくるピンチに、固い絆と信頼関係で立ち向かっていく照子と瑠衣を時にユーモラスに、時にホロリとさせる緩急織り交ぜた展開で全8話、飽きずに楽しめた。大九明子の卓越した脚本力、さすがである。
八ヶ岳の美しい冬景色、効果的に流れるビートルズの楽曲、リゾート地での仕事(高齢者によるリゾートバイトは実際に流行っているそう)、「テルマ&ルイーズ」を彷彿とさせるアメ車のコンバーチブルなど、エンタテインメント性でも上手い作りだ。
ちなみにそのアメ車は4代目フォード・サンダーバード。
二人が中古車店で車を買って乗り出す時のBGMは「サンダーバードのテーマ」笑
夏木マリの歌がドラマ中で何度も聴けるが、プロのミュージシャンの生演奏と共に聴きごたえ満点。「愛の賛歌」は本当に心震える歌声で、生で聴きたいと思った。
照子と瑠衣の若いころを演じるのは久保田紗友と光宗薫。いい具合に二人に寄せてきていて若い照子と瑠衣の演技も見ものだ。(更に若い学生時代の照子は、演:白山乃亜)
久保田紗友。
元祖お嬢様系。照子の若いころの役も、素敵でした。
また劇中、照子がバイトしているホテルの同僚の瀬尾(岡野洋一)は、「〇〇には二種類しかない」と格言めいたこと(しかし意味は謎)を言う。
なんかどっかで観たぞ、、、と思ったら「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」でも河合優実のバイト先の先輩で出ていて、同じこと言ってた。監督が大九明子だったからな。。。。
二人の生き方は男社会に対する痛烈なアンチテーゼなのだろうか。
照子の夫の寿朗(大和田伸也)は、かなりデフォルメしているものの世の中の抑圧的な夫像ではないかと思う。
学生のころも高齢者になっても、照子と瑠衣は二人でしっかり手をつないで、現実の辛いシーンから飛び出して走り出す。
それは逃避行ともいえるし、新しい世界に向かっての勇気ある脱出ともいえる。
実際にそうできない人の方が多いからこそ、二人の疾走には輝きがある。
6話までは二人の間の葛藤や地元の人たちとの交流が描かれる。
ここでは照子が占いのバイトをさせてもらうことになるガソリンスタンドを夫婦で経営する依子(福地桃子)やカリー店のオーナーの譲二(山口充)、謎の婦人・静子(由紀さおり)など、個性的な面々が物語を支える。
そして白眉なのは7話、8話。
福地桃子。
最近すごくよくなってきた。癖がないけど印象に残る演技。
7話では瑠衣が若いころにやむを得ない事情で別れた娘・冬子(松雪泰子)との話が描かれる。実は懇意にしていたガソリンスタンドの依子は冬子の娘で、イタリアから夫と帰国し狭い町で再会の機会が訪れる。八ヶ岳に逃げてきたのも照子があるきっかけでこの事実に気づいたため、このチャンスに瑠衣に会わせようとの画策だったのだが、瑠衣からは拒絶されてしまう。瑠衣は娘を捨てた時点で、自分は二度と娘には正体を明かさない、会わないと決めていたのだ。切ないが、独りで生きていく、という強い意志。それが彼女の生き方だった。
譲二の店でのクリスマスパーティで、娘の冬子と瑠衣が言葉を交わすシーンがある。
初めて会う他人同士の関係で語らう二人、そしてその後クリスマスプレゼントを交換する時、娘の冬子が好きだった黄色の手縫いのおくるみを依子に渡す。
それを眺める冬子を見つめる瑠衣。万感の想いが交錯する、涙こぼれるいいシーンであった。
またパーティで松雪泰子が歌うシーンがあったが、とても上手くてびっくりした。歌手としても活躍しているどのことで納得。
松雪泰子。
変わらず美しいし、陰のある役が似合い過ぎて困る。
8話は八ヶ岳を後にして車で旅に出た照子と瑠衣、行く先は二人の故郷、長崎・佐世保。
ここでは次世代ヒロインの藤崎ゆみあ演じる高校生の由奈が主人公。
照子と瑠衣はキーになるシーンにしか出てこない。
なぜ?というのは終盤で判明する。照子が長崎に来た理由、それは学生時代の片思いの相手、大学教授の椎橋(萩原聖人)の墓参りをするためだった。
椎橋の姪っ子の由紀(筒井真理子)の娘が由奈とわかり、ここで話がつながる。
(照子と由紀は椎橋の研究室で出会っていたということもわかり、以前挿入されたシーンの伏線の回収も完了)
彼氏と同じ大学に行くか、東京に出るか迷っている由奈は照子に占いを依頼する。
照子は由奈に伝える。「あなたを縛るものすべてにバカヤロー!って叫びなさい」
由奈は卒業式の始まる学校のグラウンドに立ち、「バカヤロー!」と叫びながら疾走する。
それは照子と瑠衣がサンダーバートで疾走するかのような、希望に満ちた走りっぷりだった。
藤崎ゆみあ。
「最高の教師」で當真あみと仲良しの女子高生役で発見。
まだまだ発展途上。でもセリフ少なくともあれだけ光っていた原石だから、これからが楽しみ。
母親役の筒井真理子も、どんな役でも完璧に演じるスーバーな女優さん。
自由を手に入れるのに年齢は関係ない。
そして、人生を楽しむことにも年齢や性別は関係ない。生きたいと思うように生きる。
でもそんな時にそばに誰か手を引いてくれる人、背中を押してくれる人がいた方がいい。
「照子と瑠衣」は、どの世代の人にも自由に生きる大切さと、それは一人より誰かと一緒の方が幸せなんだ、ということを教えてくれている。