ネットでは最近NHKのドラマが攻めている!とかまびすしいが、ドラマファンからしたら、何を今ごろ、、、、だ。

ここ何年かずっとNHKは、この「ひとりでしにたい」のように、スポンサーの忖度前提制作の民放ドラマや、世界配信を狙ってわかりやすい面白さを追求する配信系とは一線を画すドラマ作りでファンの支持を得てきたと思っている。

 

綾瀬はるかクラスの女優になると、自分で出たい作品を選べる立場になるようだ。

事実、最近の彼女は連ドラからは遠ざかり、映画中心の出演が目立っている。

それに、今回の作品ではアラフォー女子の赤裸々な実態が描かれ、一流女優であれば躊躇するような役柄だ。

だけど、あえて彼女はそこに挑む。だから彼女は人気があるのかもしれない。

綾瀬はるか演じる山口鳴海は、一回り以上も年下の職場の男子・那須田優弥(佐野優斗)から言い寄られるが、実生活でもジェシーと付き合っているとかいないとか、まんま役柄通り。

このため、視聴者側もリアリティをより感じられ、ドラマの世界に入り込むことができるのかもしれない。

 

大森美香の脚本だが、とにかくセリフが多い。

エピソードによっては、厚生労働省の教育ビデオか?と思うほど社会制度の説明ばかりの回もあったが、それらも軽妙なセリフ回しと確かな演技力の俳優陣で、決して飽きさせない。

 

鳴海の家族には、父・和夫(國村準)、母・雅子(松阪恵子)、弟・聡(小関裕太)、その妻・まゆ(恒松祐里)ら実力派が名を連ねる。

そして孤独死したバリキャリの叔母・光子に山口沙也加。

その他共演者、ゲストは藤間爽子、満島真之介(なかなかいい味出ていた)、麿赤児。

 

話題になったのが、この光子がマンションの自室で孤独死して、お風呂でほぼ液体になってしまっているところを和夫と雅子に現場検証で確認される、1話の冒頭シーン。

なかなか衝撃的な演出であり、これだけにとどまらず叔母の遺品からいわゆる女性の自慰用の器具が見つかったりと、とてもアラ還になったMATTには他人事には思えない。

 

導入部のつかみは完璧で、1話以降は鳴海がどう生きて、どう人生の終わりを迎えるかを優弥とともに真剣(?)に、面白おかしく議論しながら悩んでいくストーリーへとつながっていく。

その過程で母・雅子の人生を振り返って、専業主婦として生きる女性の社会的な存在だとか、いわゆる団塊の世代の男性こそ生活力が全くなく、のほほんと生きていると大変なことになる、とかとにかくMATT世代には耳の痛い話ばかり。

この点でも、このドラマは40代以上がターゲットなのが読み取れる。

さすがに世の20代は優弥のように視野が広くはないからだ。

 

全6話と意外にあっという間に終わってしまう印象だが、続編というより単発のSPドラマで続きが見てみたいと思った。

結局、鳴海と優弥は付き合わず、鳴海が一人で生きていく人生の選択をしたので、この先二人の微妙な関係や鳴海の人生観がどう変化していくか?また山口家との関係はどうなっていくか、は興味深いところだ。

 

それからあいかわらずNHK作品らしい演出で、こういうところがいいんだよな、、、と思ったのは最終回のあるシーン。

 

それは、偽装カップルの体で優弥とともに山口家の食事会に参加し、聡と鳴海の言い争いに優弥が加わったことで微妙な雰囲気になった帰り路での鳴海のシーン。

道中、鳴海は叔母・光子とばったり出会う。もちろんそれは幻影なのだが、光子は鳴海の前で優しく微笑む。二人はしばし対峙するが、その間30~40秒だろうか、セリフもBGMもまったくない。

民放のドラマがイマイチ好きになれないのは、BGMがうるさすぎること。

本当に必要なところだけ流してくれたらいいのに、といつも思う。

話を戻して、、、

 

このシーンがすごくよかったのだ。

結局、叔母は幸せだったのか、そうでなかったのかははっきりとはわからないまま。

でも、光子の慈愛に満ちた笑顔は、人生の最後なんて誰にもわからない。嫌なことから逃げてもいい、だから自分の好きなように生きて死んだらいいのよ。。。。と言っているように見えた。

このラストシーンは、視聴者にも自分の人生や死に方をじっくり考えてほしい、との思いが込められた時間ではなかったろうか。

 

話題性、NHKらしい思い切ったテーマ選定に演出など見どころ満載の作品だが、個人的には綾瀬はるかの女優としての懐の深さをあらためて感じた一品だった。

コメディでの評価が高いが、シリアスももちろんきっちり演じ切る実力もあり、アラフォーになってもまだまだ彼女から目が離せない。次回作が楽しみだ。

 

最期に。

ちょいちょい、いろんなギャグを差しはさんできていたが、最終話で鳴海が優弥に放った言葉、「この腐敗した世界に堕とされた」って、トリックの主題歌「月光」のフレーズですよねぇ。。。