週末の映画・ドラマ鑑賞では、チョイスに失敗してもそれを忘れるくらいの作品に出合えれば、失敗も帳消しになる。
湊かなえの小説は読んだことがない。女流作家の小説は好きでよく読んでいたので、いつかしっかり読んでみたい。
映像作品は「告白」「落日」「母性」と期待を裏切らない面白さだったこともあり、2019年のWOWOWドラマのこの作品、Netflixに上がった時から観ようと思っていた。
脚本が清水友佳子、女優陣も実力者が揃っていて、面白くない要素はどこにも見当たらない。
ドラマは全6話、5つのエピソードで構成されている。
風景からおそらく富士市、富士宮市あたりが舞台だろうか。5つのエピソードはそれぞれが各話と世界がつながっており、脇役のキャラクターも重複して出たりしている。
娘を大切に思うあまり、一人の女性、人間としての成長を歪めてしまうほどの愛情を注ぐ母親と、その母親から逃れたくても逃れられず、人生が少しずつ歪んでずれていく娘の様を、それぞれ主演する女優陣の熱演と、よくできた脚本が視聴者をぐいぐいドラマの世界に引き込んでいく。
各エピソードは主人公のモノローグから始まり、物語の終盤を先に見せ、その結末が起こる過程を見せていくというスタイルで作られている。
第1話「ポイズンドーター」、第2話「ホーリーマザー」
藤吉佳香/寺島しのぶ
藤吉弓香/足立梨花
野上理穂/山下リオ
羽村乃愛/山田杏奈
江川弘子/渡辺真起子
野上塔子/宮崎美子
落合モトキ
片岡礼子
和田正人
黒田大輔
寺島しのぶ演じる佳香の、娘への過剰な干渉ぶりは「ホーリーマザー」ではなく、まさに毒親(ポイズンマザー)に見える。そのため娘の弓香が不憫に思えてしまう展開に、視聴者はまんまと騙されてしまう。1話で娘の視点から母親を見せられた視聴者は、後半の2話で母親の娘への想いと、自らの不器用な生き方を見ることになり、そこで真実を知ることに。
そこには共に懸命に生きようとする二人の女性がいるだけで、「毒」な母親も娘もいなかった。
主人公の親子を演じる寺島しのぶ、足立梨花の競演はもとより、若いながらも山下リオ、山田杏奈の確かな演技力、ベテランの渡辺真起子の狂気の芝居が光る。
山田杏奈。
またも貧しい家の可哀そうな女の子役。。。。
この頃の彼女は、そういった役がハマりすぎていた。
第3話「罪深き女」
天野幸奈 /清原果耶
天野聡美/坂井真紀
黒田正幸/髙橋優斗
水崎綾女
峯村リエ
清水伸
落合モトキ
茅島みずき
どのエピソードも主人公の主観目線と、その真逆にある第三者の目線で真実をあぶり出す手法だが、それが一番ハマって面白かったのはこの3話だ。
名作「透明なゆりかご」の1年後に主演した清原果耶は、まるで別人の少女を演じており、表現力の豊かさが発揮されている。やはり彼女は早熟な女優さんだと再認識した。
坂井真紀演じる母親の狂気が、徐々に見えてくる演出はなかなか怖い。
無理解で他人の人生に干渉することが、本当の助けにならないどころか悲劇の引き金を引いてしまうというのが、救いがたく後味が悪い。
ラストシーンで車に跳ねられても、血だらけになりながら歩いていく幸奈がかなりホラーだ。
第4話「ベストフレンド」
漣涼香/中村ゆり
漣頼子/中村久美
大豆田薫子/ 山田真歩
郷賢/和田正人
小宮孝泰
佐津川愛美
個人的には好きな話だった。湊かなえらしい、女性の内なる感情をえぐり出すような作品で、しかも最後までミステリー要素も加えながら展開していくため楽しめる。
中村ゆり、山田真歩(実は同い年、この時はともに37歳)が、本当に良い演技をしている。この二人は大好きな女優さんで、主演を張る実力がありながらも、実はこういう作品の方が彼女たちの演技を本当に楽しめるのかもしれない。
好きな話の反面、芸能界の裏側の醜い側面や、主人公の涼香が、心の内にはドロドロしたものを抱えながらも人間臭く懸命に頑張って生きているのに、まったく報われずに命を散らしてしまう結末が、あまりに切なくてちょっと辛い。
第5話「優しい人」
樋口明日実/倉科カナ
樋口実貴子 - 赤間麻里子
奥山友彦/浜野謙太
徳田淳哉/奥野瑛太
斉藤萌/柳ゆり菜
峯村リエ
阿部亮平
水間ロン
明日実を演じる倉科カナがフェミニンな優しい女性を演じているのが新鮮だった。
彼女もまた厳格な母親の呪縛から逃れられない可哀そうな娘の一人。
明日実と関わる二人の男性を、浜野謙太、奥野瑛太が濃淡をつけて演じているのが、ストーリーを面白くしている。
1・2話での主人公・弓香同様に、厳格な母親の教えのせいで歪んだ「優しさ」を身に着けてしまった結果、自分が誰のために、何のためにその「優しさ」を持ち合わせて生きているのかが、わからなくなってしまう不幸を描く。
ただ、このエピソードでの母親・実貴子は、自分の生き方を最後まで貫きながらも、娘への愛情の注ぎ方が間違っていたのだ、と気づいた佳香と違い、最後まで自分の娘との距離感を正そうとしなかった(というか、理解していなかった)。
そのせいで、明日実が十字架を背負ってしまったのだろうか。
最終話「マイディアレスト」
寺崎淑子/伊藤歩
寺崎和子/梅沢昌代
寺崎有紗/佐津川愛美
この話は一番怖いかもしれない。伊藤歩の怪演が光る。
母親に加え、妹の有紗(佐津川愛美の役作りが素晴らしい)という二人の女性に、幼少期から抑圧された結果、極めて歪んだ愛情、恋愛感情を身に着けて育ってしまった淑子。
自らが正しいと信じる世界に浸ってしまい、周囲から別次元に存在しているかのようなふるまいは、3話の清原果耶演じた幸奈と重なるかもしれない。
まるで淑子という人間が、そこに本当に存在するかのような伊藤歩の芝居は必見だ。
ここでの母親は悪気がない毒親で、完全に一人の人格を壊してしまった、という点では地味ながら実は最凶の毒親だったかもしれない。
最期に、全編通してエンディングで流れる主題歌は、聴きようによっては不気味な歌だ。
母親の歪んだ愛情が全面に押し出されるような歌詞と、その気味悪さとアンマッチな童謡のようなメロディ。耳に残ってしまう。
何気なく観たが、かなり満足度が高かった。
ただ、どの話もまったくハッピーにはなれないので、気持ちが落ち込んでいる時にはお勧めできないかな。。。。。