ゾンビものに外れはない、とよく言う。

なぜだろうと考えるのだが、それはきっと寂しさを感じてしまうからだろう、と思う。

身近な存在だった家族、恋人、友人が、ゾンビに噛まれてしまうと言葉も通じない化け物と化し、どんどん孤独になっていく。

そして自分も、いずれその仲間になってしまったら、自分で無くなってしまう。

この何とも言えない切なさ、寂しさに尽きるのかも。

 

だが、WOWOWドラマの本作は、そんな寂寥感とは無縁だった。

とにかく、ゾンビ化したらどんどんぶった斬ってしまう。

思い出に浸ることなく、あまりに思い切りがよく斬り捨てるので、これってゾンビドラマかいな、と思うほど。

 

舞台は天下分け目の関ケ原の合戦後の日本。主人公のお凛に木村文乃。

忍びの一族だったお凛はある時、トキ(田牧そら)という少女の父親を斬り殺したのち、冷酷なくノ一で母でもある氷雨(富田靖子)に、トキを殺し屋として育てよと命じられる。

その命に背いてトキと共に逃亡したため、氷雨たちに追われることに。

 

医師の源三郎(高橋克実)に面倒を見てもらい、平穏に暮らしていた二人だったが、ある時「群凶」と呼ばれるゾンビに襲われ、大きな陰謀の渦に巻き込まれていく、、、、という物語。

徳川家光の双子の片割れで、ある恐ろしい実験で群凶と人間のハーフ?になってしまった謎の美青年・士郎(田中樹)、徳川家光の家来で幕府の討伐衆のリーダー・十兵衛(山本耕史)。お凛とトキには優しい源三郎も実は群凶の件では、何か秘密を持っているようだ。

ほぼこの顔ぶれが主要メンバーで、全6話の物語は進んでいく。

 

迫力あるゾンビのメイク、滋賀、京都、和歌山などの地方でのロケによる、中世日本の原風景、そしてテンポ良い演出と脚本(若い、ばばたくみとベテランの港岳彦による)で、一気見できるクオリティ。

実在の人物が多く出てくるが、歴史的考証はまったく無視している。というか、そもそもSFなので、まったく問題ない。大権現様(家康公)が、群凶として城の地下に幽閉されていても全然良いではないか。

それよりも殺陣含め、時代劇の雰囲気が大切にされていて、時代劇ファンとしてはゾンビ X  時代劇 X 謎解きドラマとして十分楽しめた。

 

だが物語を観ていくと、それらに加えて本筋は士郎という異形の者の耐え難い絶望と孤独、お凛とトキの血のつながらない母娘の再生の物語であり、奥行きあるストーリーに気づく。

激しいゾンビアクションや殺陣だけに終わらないので、じんわりとドラマの世界観に浸っていける。

 

木村文乃は、自らの意思に反し、人を殺めて苦悩する一人の女を、悲しくも美しく演じていて、お凛という悲運の女性を見事に演じていた。

木村文乃。凛々しい役がぴったりの彼女。素敵です。

 

また、「スカイキャッスル」で注目された田牧ソラも、悲しい過去を背負い、自らも群凶になってしまうという、恐ろしい運命に翻弄されながらも強く生きる少女・トキがピタリとはまっていた。

お凛とのやり取りでは、難しい年ごろの女の子のようにふるまい微笑ましい。

トキという役は難しかったと思うが、やりきった彼女はすごいと思う。

 

田牧そら。

このドラマで、彼女の魅力がわかった。また別途書きたい。

 

お凛を最後まで追い詰める、氷雨役の富田靖子のおどろおどろしさも見ものだ。

最近ちょっと危なそうな人を演じたら、彼女はハマる。氷雨も、実の娘のお凛を平気で殺そうとする、かなりヤバい女だ。

富田靖子。

最近、普通の役が少ない気が。。。。

 

あともう一人、中盤でお凛の唯一の友人となる女囚仲間の桜を演じる穂志もえか。

演技力は抜群。話題になった「SHOGUN 将軍」で評価されたが、NHKの「TRUE COLORS」での演技も記憶に残る。

桜が群凶となり命を落とす、ススキをバックにした夕景のシーンは、とても美しかった。

これからどんどん出てくるぞ、と期待の女優さんだ。

 

最終回、壮絶な戦いの末、士郎と氷雨は命を落とし、お凛、トキ、十兵衛は新たな人生を歩むことになる。

タイトルの「I,KILL」は、文字通り「殺す」という意味だろうが、ローマ字読みすると「いきる」。

終盤で文乃ちゃんが「それでも私は生きる!!」と叫ぶシーンで、なるほどと思った。

たくさんの命が奪われるが、それでも生きる望みを捨てない、というお凛の強い意志が感じられた。

 

そして、最後の最後にもう一つのオチが。

お凛との悲しい別れを選んで、船で天草へと旅立つトキ。

死に際の士郎に、髪を切って少年として生きていけと諭され短髪となったトキに、船頭の男(近藤芳正)が名前を聞く。

そこで彼女はこう答える。

「四郎(士郎)、天草四朗時(トキ)貞」

そう来たかあ、、、

 

その他、矢島健一、山下容莉枝、高橋光臣、濱田マリ、黒崎レイナ、佐藤江梨子らが出演。

 

ゾンビものの時代劇、面白そうだと思って観始めたが、意外に深いストーリーにちょっと記憶に残る一品になった。お勧めだ。