この作品も、大当たりの春ドラマの中にあって秀作だった。
「わたし、定時で帰ります。」などの朱野帰子の小説が原作。
多部ちゃん(あえてこう呼びたい)の主演ドラマに外れ無しのジンクス通り、エンタメとしても考えさせられる作品としても、楽しめる一品だった。
多部未華子という女優さんは、そのドラマの世界観を一身に背負って、その中心で共演者の良いところも引き出しながら演技ができる、唯一無二の女優さんだと思う。
彼女の主演ドラマ、映画は、共演の俳優陣も活き活きしている気がする。
専業主婦と兼業主婦、家事と仕事という対立するテーマを、説教臭くない、本当にその世界に身を置いている人がうなづけそうなエピソードで、面白おかしく、時にはほろっとする展開で、毎週楽しめた。
専業主婦の詩穂(多部未華子)と、虎朗(一ノ瀬ワタル)の村上家、兼業主婦の礼子(江口のりこ)と、篤正(川西賢志郎)の長野家、育休中の官僚・達也(ディーン・フジオカ)と、バリキャリの樹里(島袋寛子)の中谷家という、それぞれ違ったタイプの3家族が、共に交流を重ねる中で、家事、仕事、夫婦、子育て、そして家族についての価値観を再認識し、どういった選択が各々の家族にとっての幸せになるのか、模索していくというストーリー。
常に客観的かつ冷静な目で、自らと物事を俯瞰的に見て判断する詩穂。
官僚らしく、あふれる知識を駆使して、完璧な家庭を構築しようと奮闘する達也。
とにかく何事にも全力投球し、自分も家族もすべてをしょい込む頑張り屋の礼子。
個性あふれる3人が、徐々にお互いの考えを認めていき、化学反応を起こしながら、幸せで理想の人生をつかむまでが、ユーモアたっぷりに描かれていく。
根底に流れているのは、お互いの立場や存在を理解しようという気持ちを持つことの大切さだ。
詩穂と虎朗、達也と樹里、礼子と篤正の夫婦同士はもとより、家事を顧みなかった父親の準也(緒形直人)と詩穂、息子を虐待をしていた母の理恵(長野里美)と達也という、親子の間でもそれは見られた。
相手の気持ち、行動に少しでも関心を持ち、理解、共感して受け入れる。
簡単のように思えて、家族だからこそなかなかできないことだったりする。
寄り添う、というのではなく、相手と同じ場所に立って物事を見てみる、ということだろうか。
それこそが相手の気持ちになる、理解するということだ。
このドラマでは、多部未華子演じる詩穂が、様々な場面でそれをやって見せてくれる。
彼女の優しい語り口と、決して相手に無理強いしないスタンスが心地よい。
義母よりマタハラを受け続けていた、蔦村晶子(田村桃子)や、シングルマザーで追い詰められて詩穂を脅迫する、白井はるか(織田梨沙)らも、詩穂に救われた人たちだ。
織田梨沙。
「約束 〜16年目の真実〜」での演技が印象的だった。
強い眼力が魅力の女優さん。
田辺桃子。
脇役ばかりでは惜しい、惜しすぎる。
早く主演作を。
自分を振り返ると、家事や子育て、主婦業について、これまで本当に理解していなかったな、と反省しきりだ。単身赴任をしたり、人生経験を積んできて、ようやくそれらがわかってきたというていたらくだ。
だから、このドラマの中の男性たちの気持ちや視点は、自らのことのように思えた。
果たして、MATTのような50代は楽しめたのだが、20~30代の若い人たちがこのドラマを観て、どう感じるだろうか。
今更、何言ってんの?となるのではないだろうか。
それなら、それでよいと思う。時代は確実に良い方向に変わっていってるんだ、ということだ。
その他の登場人物では、田中美佐子と美村里江の親子のエピソードは印象的だった。
詩穂の亡くなった母親に紺野まひる(最近、お母さん役多し)。礼子の会社の後輩に、中井友望(ベイビーわるきゅーれで好演)。片岡礼子もゲストとして存在感を見せていた。
また、詩穂と虎朗の娘・いちご役の永井花奈は、計算の無い、子供らしい演技でとても可愛らしい。
最終回、詩穂、達也、礼子は、自分のこと、家族のことを考えたうえで、それぞれにとって最善の道を見つけて生きていく決意をする。
考えに考え抜いて自分で決めたからこそ、尊い。
そして、それを理解して支えるパートナーの存在もまた尊いのだ。
主題歌は、離婚伝説の歌う「紫陽花」。軽快なポップスで、優しい眼差しにあふれていた、ドラマの世界にマッチ。良い楽曲です。