不覚だった。

こんな面白い映画だったとは。

世間的に大きな話題となっていなくとも、輝く作品はあるのだ。

 

原作は「伊藤くんA to E」、「ナイルパーチの女子会」「ユーミンストーリーズ」などの柚木麻子。

監督は堤幸彦だ。

これはもう、面白いに違いない、と。

 

主演はのん。のん、についてはまた別途書きたい。

この映画を観て彼女の女優としての実力と存在感は、確かなものだと確信した。

のんが主人公でよかった、と思えるからだ。

 

共演は今(良くない意味で)話題の、田中圭、そして滝藤賢一。

田中みな実、若村麻由美、高石あかり、永瀬ゆずな(カナカナのあの子)なども出演。

光石研や、平山祐介などはちょい役だ。

橋本愛もゲストで出ているが、のんとの共演というのが心憎い。

 

橋本愛とのん。

将来にわたって、この二人が共演するたびに、ファンはあの作品を懐かしむのだろう。

 

現在休館中の山の上ホテルで最後に撮影された作品として、貴重な映画ともいえる。

MATTの母校のすぐ近くにあって、学生時代にはよく前を歩いた。

現在はその明大が土地・建物を取得したらしい。

 

原作は現代劇なのに、映画では80年代に変更されている。

なぜ?と思う反面、柚木麻子の描く世界は80年代の、今以上に男社会が色濃かった時代を舞台とすることで、より原作の世界を描きやすかったからだろうか。

 

冒頭の30分で離脱してしまう人もいるかもしれない。

中島加代子(のん)と遠藤(田中圭)、東十条(滝藤賢一)の3人の、スピード感あふれるやり取りについていけないと、少々苦しいかも。

でも、この3人の非日常な会話と行動が、ジェットコースターよろしく展開されていく中盤以降は、ぐいぐいとストーリーに引き込まれていく。

 

のんが演じる新人作家の、直情径行的な情熱に支えられた、破天荒な行動は、男性社会に対する嫌悪と挑戦のように見える。

柚木麻子の作品に一貫して流れる、男女間の絶望的な溝というテーマ性によるものか。

かといって、ドロドロしたものは感じさせず、のんのキレのあるセリフ回しと演技が、爽快感を与えてくれる。

それは東十条のような、男社会の歯車ではあるのだけど、仕事に真摯に向き合うマジメで正直な男の存在も大きいかもしれない。彼と加代子との間に芽生える、奇妙な共闘の有志のような関係が、とても良い。

 

劇中、すごく印象的な演出というかカメラワークのシーンがあった。

それは東十条の家で、東十条の家族(演:若村麻由美、高石あかり)に、加代子の正体がばれるシーン。若村麻由美演じる東十条の妻に、その真偽を問われた時、加代子の目を隠したカットに切り替わる。

のんの口元の演技だけで、この後どんな展開になったか、を表現したこのシーンは何とも心憎い演出だった。さすが堤幸彦。。。

 

どんな困難やピンチに直面しても、自分が行きたいところへまっすぐに突き進む、その勢いとパワーを持っている中島加代子は、そのままのんと重なるところがある。

この映画は、のんが主役でないと成り立たない作品だった。

 

そういう意味で、ひとつの役を演じ切ることができる俳優こそ、名優といえるか。

のん、の女優としての時代はこれからだと確信した作品だった。

映画好きなら、観るべき作品だと思う。