春ドラマは厳選した5作品に絞って観ることにした。
そして、そのすべてが良作で、宝くじを当てたような気分で嬉しい。
その中で先陣を切って、今日最終回を迎えたのが、桜井ユキ主演のこのドラマ。
漫画家の水凪トリの原作で、桜井ユキ演じる麦巻さとこは膠原病を患いながら生きているが、これは水凪トリも実際に病気にかかったことから、実体験をもとにしているそうだ。
桜井ユキのことは、ずっと実力派女優だと見ていた。
何も特別なことが起こらない日常で、普通の女性が一人で生きていく、というような役は心の内面の表現力の自然さが問われる。彼女はその点、とても芝居に深みがある。
桜井ユキにとっても「だから私は推しました」に並ぶ、代表作になったと思う。
控え目で優しい桜井ユキ、というのも魅力だった。
長く下積みで頑張ってきたからこそ、の演技力。
土居志央梨とは「虎に翼」での、よねさんと涼子様以来の共演。
同じNHKで好評だった「団地のふたり」でも舞台の滝山団地が、今回も舞台になっている。巷で最近話題の団地、ドロドロ展開も伏線回収もないホッコリ系、身近な日常を描く、など地味ながらも、受けのいいコンテンツを含んだストーリー。
そこに桜井ユキという実力ある女優に、宮沢氷魚(役:羽白司)、加賀まりこ(役:美山鈴)、土井志央梨(役:高麗なつき)や、北乃きい、西山潤、福士誠治(役:唐圭一郎)、田畑智子(役:青葉乙女)、朝加真由美(役:麦巻恵子)、安定した配役があれば、ドラマとして破綻はない。
その他ゲストには、NHK御用達の宮崎美子、安藤聖、前田亜季、渡辺哲ら。
加賀まりこは81歳という、年齢を感じさせない若々しい演技で女優魂を感じた。
宮沢氷魚は、この司という役にはピタリとはまった気がした。こういうどこかつかみどころのない男、いいと思う。
土居志央梨はすっかりNHK女優になった。これまでどれもクセの強い役ばかりだが、そうでない彼女もいつか見てみたい。
主人公の麦巻さとこは、一見健常者に見えるものの、不安定な健康状態になりがちな膠原病を患うことで、なかなか仕事を見つけられない。
病気のことを母親にも理解してもらえず、一人きりで頑張って生きてきたさとこは、移り住んだ団地の部屋のオーナーである鈴や、その同居人の司と出会い、また新たな職場で唐や青葉らと関わり、彼らの優しさに触れることで、少しずつ変わっていく。
最終回で、電話でさとこが司に「はじめて自分を大事にすることができた」と伝えるくだりがある。自分のことをさておいて、人に優しくすることを自分に強いてきたさとこ。
だけど、それで疲弊しきった結果がボロボロになった自分。
その姿は、現代に生きる心優しいひとたちにも通じるものがあったのか。
だからこそ、このドラマが強い支持を得て、見逃し配信再生数で20年以降のNHKドラマで、過去最高の記録を打ち出したのだろうか。
頑張り過ぎたさとこが、周囲の人の温かさに支えられて再生していくその過程を、丁寧に描いていくことで、観る者を得も言われぬ優しい気持ちにさせてくれる。
そんなドラマだった。
注目した若手では、中山ひなのがいた。
独特の雰囲気で、今後の活躍が楽しみ。
ほのぼのシーンが多いドラマだが、さとこと司の恋路もストーリーに花を添える。
と言っても、司は一向にさとこの想いを受け入れそうな気配はない。
だが最終回で初めてわかるのだが、彼もまた、さとこのように心にモヤモヤしたものを抱えて生きていた。
自分に優しくない生き方という点で、実は二人は似たもの同士だったことがわかる。
この二人が今後、心通わすことがあるのか、、、
そんな含みを持たせて終わったし、団地のこの先の話=建て替え問題もあるため、続編が待たれる。
中島ノブユキの牧歌的な音楽もドラマの世界観にぴったりで、主題曲に歌詞をつけた、武田カオリの歌も、ほのぼのした空気感でとてもよい。
最期に。
ドラマでは薬膳がいつも物語の中心にある。
さとこが作る料理は、旬のものを味わうことで、人間が本来持つ回復力を助けるものだ。
人間の体は、その人が食べたものでできているらしい。
食べるもの、食べることは大切だ。
ちょっと辛くなり疲れたら、体にいい、美味しいものを食べてみよう。
そんな気分になった。
良いドラマだった。