原作者の柚木麻子の作品といえば、「伊藤くん A to E」はとても良いドラマ&映画だった。
昔から、女流作家の小説が好きで読む機会が多い。
男と女というのは一生相いれない、お互いの本当の心の中は理解できないものだと思っている。だからこそ、女性を理解しようというのではなく(そもそも本当の意味で理解などできない)、男が永遠に理解できないものの正体を見たい、、、という本能的な欲求に従い、女流作家、監督の作品を求めるのかもしれない。
タイトルにあるナイルパーチとは淡水の肉食魚。生態系を破壊するほどの攻撃性を持っている。柚木麻子の描く世界、それは男の見えない場所で女同士が壮絶に競争し、お互いを攻撃しあっているその地獄のようなものだが、この作品でも心が捩じられきりきりと搾り上げられるように綴られている。
良い原作に良い脚本、そして良い役者とすべてがそろった本作は、隠れた名作と言っていいと思う。全8話にぐっと凝縮されたエッセンスを、女優陣が文字通り体を張った演技で魅せてくれる。
ちなみに「伊藤くんA to E」でもそうだったが、男優陣は刺身のツマ程度の扱いだ。
例えば杉下康行役の淵上泰史は女を理解しようとしない男代表、丸尾賢介役の篠原篤は、女に多少理解のある男代表として描かれている。ただ、それぞれが女性サイドにとっては重要な立ち位置で存在し、物語に立体感を持たせている。
主人公の志村栄利子を演じるのは水川あさみ。もう一人の主役ともいえる丸尾翔子を山田真歩が演じる。この二人の演技力があってこそのドラマといっても過言ではない。
水川あさみの豊かな表現力は、人との距離感が常にバグってしまっている危うい栄利子という存在をリアルなものにしている。
水川あさみ。
美人なのだが、役としてはそれこそなんでもできる器用なイメージ。
また、山田真歩は本当に実力ある女優さんで、脇役でも光るが主役でも魅力的な役者であることを本作で証明してみせた。
山田真歩。
こういう人のことを本当に演技が巧い役者だ、というお手本のような女優。
さらに共演の女優陣も素晴らしい。
2021年の放映当時は森矢カンナ名だった、森カンナ。小笠原圭子という、過去に栄利子によって人生を台無しにされた女性を演じている。
栄利子の母役の宮地雅子はベテランらしい味のある演技。
そしてサイコパスな女・高杉真織を演じて爪痕を残した小池里奈。
3人とも2人の主人公とかかわる「女」として、なくてはならない存在である。
小池里奈といえば将来期待された若手だったが、色々あってその後あまり見かけなくなった。
この作品での演技は相当怖い。もっと彼女の活躍が見たいのだが。
「桃ノ木マリン」だけで終わるのはもったいない。。。
男社会の中の男同士の競争は、勝つか負けるかがはっきりしていて可視化されていることが多い。一方で男社会の中の女同士の争いは、非常に見えづらい。
女性は単純な男の世界には無い、表と裏を同時かつ瞬時に見て判断をしないとダメなのだ。
栄利子と翔子は、タイプも生きて来た道も違うがその難しい世界で上手く生きることができず、もがき苦しみ、目を背けて生きてきたという点では似たもの同士であった。
不幸だったのはお互いが相手は自分と違う種類の人間だと思い込んでいたことだったのだろう。
こういうドラマを観れば観るほど、本当に男と女は違う生き物なのだということに驚かされる。
だから安易に「女性の気持ちがわかる」などと言う男のことは信用ならない。
同時に、男の気持ちがわかる女性というのもうさん臭いものだ。
いずれのケースにしても、相手の性からは「わかっていないやつ」というレッテルを貼られ、笑顔の裏では軽蔑されるのだ。
最終話で栄利子と圭子(森カンナ)、栄利子と翔子がそれぞれ互いの胸のうちをさらけ出して、お互いをいたわり合う。これまで女性同士の激しいつばぜり合いを見せられてきた後だけに、言葉の一つ一つが心の奥底に染み入る。
誰かのための、誰かが認めてくれる自分はいらない。
自分を信じ、自分のために生きる。
支え合うということは、依存することではなくお互いが自立し、互いの距離感を大事にしながらいたわり合うことだ。
共演者はあまり多くはない。安藤聖、飯田基祐。
監督の瀧悠輔は、「クレイジークルーズ」「七夕の国」「早朝始発の殺風景」「アカリとクズ」「ガールガンレディ」などで監督・演出。
2日で一気見するほどのスピーディな展開と圧倒的な熱量。
ただ、それなりのテンションの時でないと視聴が辛いほどの演技力で見せてくれるので、心の調子は万全を期して。