WOWOW「連続ドラマW」にて放映された、監督集団「5月」の平瀬謙太郎、関友太郎による意欲的なドラマ。

 

6話完結だが、ぼーっと見ていると、なんだ何も解決しないまま終わってしまったぞ?

この男は、犯人なのか?姿の見えない男を追う刑事は、真相を解明して男を逮捕できるのか?シーズン2に続くか?などと、頓珍漢な感想を持ってしまう。

 

違う。

このドラマは謎解きミステリーではない。

タイトルにある「災」の通り、これは平凡な日常の中に潜む不条理な出来事、それもなんの前触れもなく訪れるとびっきり不幸な瞬間をただただ描いた物語なのだ。

そこには事件がなぜ起こるのか、納得のいく理由も伏線回収もない。

「災」はいつ誰にでも訪れるもので、それを理路整然と説明できるものはこの世に存在しない。

香川演じる「男」は悪魔的な犯罪者なのか、はたまた疫病神のような象徴的存在なのか。

それらも闇の中のまま物語は6話で終わってしまう。

 

全編を通してBGMに使われるのは、シンプルながら耳障りで嫌な不協和音で構成されるピアノや女性のスキャットだ。この音がまた観る者の得体のしれない不安を否応なく掻き立てる。

アプローチは異なるが、ホラーサスペンスの名作「トリハダ」があえてBGMを遣わず、日常の音だけで恐怖を煽ったのと近い感覚だ。

この不安定なBGMと、全体的に澱がたまったような暗い画面とが相まって災厄がいつ訪れてもおかしくない、という雰囲気を高めている。

 

不審な死亡事件の起こるところに必ず現れる不気味な男を演じるのは香川照之。

行く先々で名前と職業を変え、別人になりすまし決して写真には写らず痕跡を残さない。

まさに変幻自在だが、香川だからこその役作りで見事に不気味な存在に仕上げている。

地上波ではまだTVに出られないのかもしれないが、ピエール瀧といい、問題を起こしたいい役者が復帰する場所があるというのは嬉しい限りである。

 

そして、堂本刑事を演じた中村アン。

どうしても「SUITS/スーツ」の秘書・玉井役が強すぎて、美人でかっこいい女性の筆頭というイメージだったが、最近は女優としての幅を広げていて、より魅力が増してきた。

「約束~16年目の真実~」での桐生刑事、「僕の手を売ります」でのかわいい女性など多彩で、「約束~」でも刑事役だったものの、今回の堂本とはキャラの作りこみをしっかり変えてきて、そこも見どころの一つだ。

 

共演の竹原ピストル、宮近海斗の両刑事も味が合ってとてもよい。

ゲストも有名俳優、多数の名バイプレイヤーが名を連ねる。

 

1話 中島セナ、安達祐実、安藤聖、池田良、坂本愛登

2話 松田龍平、諏訪太郎、芋生悠、後藤剛範、三河悠冴、蛍雪次朗、神野三鈴

3話 内田慈、藤原季節、宮崎吐夢、水澤伸吾

4話 じろう(シソンヌ)、奥野瑛太、早織、谷田歩、名村辰、本田博太郎

5話 山田真歩、重岡獏、中村育二

6話 テイ龍進、坂井真紀、井之脇海

 

名のある役者もちょい役だったりするので、そのせいで続編があるのか?と勘ぐってしまう。

井之脇海などは、最終話の最後に本当にちょっとだけしか出ないのだ。

何かの伏線かと勘違いしてもしかたない。

 

中島セナはとても良い雰囲気のある女優さん。

中島セナ。

出演作はまだ少ないが、このドラマで気になった。

ポカリスエットのCMに抜擢されていることから、やはり光るものを持っている。

 

また、芋生悠は「極悪女王」以来久しぶり。最近配信ドラマが多いが、地上波でももっと出てもらいたい。

内田慈、山田真歩、坂井真紀あたりが渋いキャストである。

 

どのエピソードでも、平凡な日常でもがき苦しみ生きる人たちが、ようやく長く暗いトンネルを抜けたと安堵した次の瞬間に、突然の災厄に巻き込まれる。

それは不条理な死であり、誰も疑わないような不慮の事故や自死だったりする。

その災の周辺に常に存在している謎の男は、どんな人のそばにもある偶然の象徴なのだろうか。だとすると、「人は理由もなく死なない」というポリシーで事件を追う堂本の存在が、とても虚しく感じられてしまう。

 

監督集団「5月」の才能が爆発したようなドラマ。

映像作品の表現の無限の可能性を感じられる、久々に手ごたえある作品だった。

こういったドラマ、また観たい。好きな人にはがっちりハマると思う。