昨年放映していたが、予約し忘れて観ることができず。

アマプラでupされていたので、早速観てみる。

NHKエンタープライズ制作で、佐々涼子の原作(ご本人は昨年没。残念です)、古沢良太の脚本、そして豪華な俳優陣で想像を超える名作だった。

 

全6話と短いが1話1話がとても濃密で、正直言うと精神が安定している時でないとがっぷり四つに組んで観ることができないだろう。

NHK「透明なゆりかご」以来、久しぶりに毎回涙するドラマに出会えた。

 

一般人はなかなか関わることのない、ご遺体を海外から運ぶというお仕事。

コロナ禍の2021年、北米駐在時代の話。

昔、一緒に仕事をした方が退職して娘の住むオハイオに遊びに来ていたが、コロナにり患してしまい帰らぬ人となった。その方は結局アメリカで火葬してもらい帰国したという。

残念な話だが、ご遺体で帰国するのはかなり大変なのだ。(しかもコロナ禍だったし)

 

国内だけでも葬儀、ご遺体の搬送は大変な作業だが、それが海を渡って行われるとなると、その大変さは想像の範囲を超えている。

 

名手、古沢良太の脚本はキレがあり、毎話ストーリーが練りに練られ、緊迫感とコミカルなシーンの織り交ぜも巧み。

またいくつかの回は2つのエピソードが並行に進んでいき、それぞれが感動を呼ぶというなかなか高度な脚本にもなっている。

 

主演の米倉涼子は最近時「ドクターX」が終了し、新たなドラマにチャレンジすることができるようになった。本作の伊沢那美役は、大門未知子のようにかっこいい役でもありながら、熱いハートを持った人情味あふれるキャラで好感が持てる。

また共演に遠藤憲一と、「ドクターX」ファンにはたまらないだろう。

 

高木凛子役の松本穂香は、もう一人の主人公として彼女らしい柔らかな雰囲気を保ちつつも、エリート崩れの気の強い女子を演じている。

最近の中では異色の役作りといえるかもしれない。

 

松本穂香。

若手の中でも独自ポジションを作れる才能を持っている。

 

彼らが所属する会社はエンジェルハースという会社は、実在する会社をモデルとしているらしい。同僚には城田優、野呂佳代、徳井優、矢本悠馬ら、個性あふれるメンバーが名を連ねる。

 

物語の開始時にその話の中心人物がすでに亡くなっている、という展開は「アンナチュラル」を思い出す。単に人の死を軸に話を進めるだけではなく、亡くなった人物の生前の人生にスポットライトを当てて、人の生きざまや人生を掘り下げている点も類似性がある。

ただ、本作はより人の生きた証であったり、残された遺族との交流に焦点を絞り、彼らにかかわる伊沢、高木ら主人公たちの個人の人生をも浮き彫りにしていく。

 

各話とも濃密な物語でうっかり気を抜いていると思わぬツボを突かれ、気が付いたら涙駄々洩れになってしまうので要注意だ。

どの回も珠玉のお話ではあるが、特にご遺体と対面して、故人とお別れをするクライマックスでの、ゲスト俳優たちの泣きの演技が圧巻である。

 

エピソード1の麻生祐未、エピソード2の筒井真理子、徳永えり、エピソード3の菅原大吉、エピソード4の松本若菜らの泣きの演技は本当に素晴らしい。

特に、筒井真理子、菅原大吉らは、必死に押し殺していた感情の爆発がナチュラルでたまらない。

これら、贅沢極まりないゲスト陣のみならず、多数の実力派が出演している。

 

松本若菜。

気の強い役も魅力的。

 

エピソード1 杉本哲太、葉山奨之、嶋田久作

エピソード2 平田満、浅利陽介、矢島健一、中村育二、中村久美、阪田マサノブ、マギー、水上京香

エピソード3 井上肇、余貴美子、吉田ウーロン太、大後寿々花、草村礼子、小林綾子

エピソード4 近藤芳正、 濱津隆之、高橋由美子

エピソード6 飯田基祐、野間口徹

 

ほかに警視庁の刑事・黒崎に谷田歩、伊沢那美の夫で、8年前に海外で行方不明になったままの足立幸人役に向井理、高木凛子の母・塔子に草刈民代。

こういったゲストキャストの豪華さは、NHKならではであろう。

 

伊沢那美は、再婚相手の足立幸人との幸せな生活を、彼の過去のある事実を知り、自ら関係に終止符を打つ。そのまま足立は行方不明となってしまい、心に大きな傷を負うことになる。

一方、高木凛子は娘を愛せない冷淡な母親との関係に悩みつつも、なんとか母親に寄り添おうと努力するが、病で先が長くない母親との溝は深まるばかり。

 

この二人のそれぞれの親族との間に広がる溝を描きつつ、各エピソードで展開される大切な人の死に直面した家族の絆を対比させて、物語に深みを与えている。

エピソード6の凛子と母・塔子のお話は最終回にふさわしい感動の物語だ。

ついに生前はお互い心を通わせることができなかったが、それでも血のつながった母と娘の間には、他人にはわかりえない愛があった。

草刈民代の重厚な演技に対し、若い松本穂香はしっかり受け止めて演技していた。

彼女、いい作品に出て良い俳優と共演することで、どんどん成長していると思う。

 

国際霊柩送還士のプロ魂、ご遺体となった遺族を受け入れる家族の悲しみ、物言わぬ遺体が語る家族への愛、主人公たちの愛する人との葛藤の物語。

様々な要素を盛り込みながらも、ストレートに泣けるドラマを作ったスタッフに感謝したい。

 

シーズン2は、米倉涼子の体調などもあり連ドラではなく単発ドラマの可能性もあるとのことだが、どんな形でもぜひ、カムバックしてほしい作品。

こういうドラマがまだ観られるというのは幸せなことだ。