おそらくだが、NHKでしか放映できないドラマだろう。

万人に理解を求めるものではなく、じっくり自分の中で咀嚼して楽しむ作品。こういうドラマは好きだ。むしろ4話オムニバスの映画でもよいくらいだ。

 

原作者の村上春樹の小説というと、「ノルウェーの森」くらいしか読んだことが無いので、彼の世界観を知るほど作品に触れているとはいいがたい。

脚本は「ドライブ・マイ・カー」などの大江崇充、演出は「あまちゃん」などの井上剛。

 

45分の中で原作の世界観をすべて表現しきれないのは致し方ないので、小説をしっかり読み込んでから見ると、より深く作品を楽しめるであろう。

 

原作は1995年の地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災にインスパイアされた作品だが、ドラマはそれに加えて2011年の東日本大震災がフィーチャーされている。

そして1995年からのいわゆる「失われた30年」も素材として演出されているので、原作とはまた違ったテイストになっているのかもしれない。

 

いずれにしても、個人的には興味深く4話一気に楽しむことができた。

それぞれのドラマは独立したエピソードでありながら、テーマ性においてつながりを持っている。

様々なレビューを見てみたが、それぞれの考察はなるほどと納得いくものばかりであるし、どれもが正しいのであろう。

全ての解を求めることに意味はなく、村上春樹が考える大きな災害に遭遇した時の人の感情、振る舞い、その後の人生の生き方や、当事者と傍観者それぞれの関係性や感じ方などを頭の片隅に置いて、登場人物の心境にシンクロしながら見ると面白い。

 

ちなみに各話の感想はほとんどストーリーに触れないかもしれない。。。w

 

第1話『UFOが釧路に降りる』

 

 

 

岡田将生、橋本愛、泉澤祐樹、北香那、唐田えりか

 

人間って突然予想だにしない出来事に直面したら、どういった反応をするのだろうか。

母が急死した時、正直なところ何が起こったのか受け入れるまで時間がかかった。

突然に妻(橋本)が失踪したことに対し、まるで他人事のように振る舞う夫の小村(岡田)の心情はよくわかる。

 

北海道に小旅行に出かけた小村は、そこで会った二人の不思議な女(北、唐田)からUFOの話を聞く。

北海道、UFO、というと「北の国から」で、原田美枝子演じる教師がUFOと交信できるという噂が教え子の間で流布されるという話があった。

ドラマの流れからは異端の話であり、今でも心に残っているエピソード。

 

唐田えりかはこの作品でも独特のエロスを感じさせる演技で、印象付けた。

色々あった人だが、女優としては再生の道を順調に歩んでいるように見える。

 

1995年という時代設定なので車も古い。

初代レガシーツーリングワゴンではなく、レオーネエステートというところが渋い。

 

第2話『アイロンのある風景』

 

堤真一、鳴海唯、 黒崎煌代

 

堤真一、鳴海唯という好きな俳優さんが出ており、お話自体も二人の間に流れる優しい空気が心地よい好きな話だった。

 

何を演じても、らしさを残しつつ魅力的に役を演じる堤真一は、本当にすごい役者だと思う。

この話では阪神淡路大震災を経験した、という設定なので神戸出身ということで関西弁を駆使。西宮市出身だが、実は鳴海唯も同郷。彼女の関西弁も聞きたかった・・・

 

大きな災害で大切なすべてを失った喪失感をまとう中年の画家と、居場所を失って先の見えない不安を抱え込む少女が心通わせるまでの過程が、たき火の前で描かれる。

たき火の火にぼんやりと映し出される、順子(鳴海)のからっぽのような、何も見ていないかのような目が印象的。

 

鳴海唯。いい女優さんなので早く主演作を。。。

 

鳴海唯は20代半ばのまだ世間的に有名ではない女優としては、小野花梨、藤野涼子、今回も出演している北香那などと並び朝ドラに抜擢してもらいたい、実力ある若手の一人だ。

高石あかりはまだいいとして、橋本環奈、今田美桜、見上愛など、個人的には最近のNHKのヒロイン選定には疑問を感じる。無名だった能年玲奈のような才能に手を差し伸べるドラマであってほしい。

 

第3話『神の子どもたちはみな踊る』

 

渡辺大知、渋川清彦、木竜麻生、井川遥

 

4話の中で、一番なにか心に刺さるものが薄かった作品。

渡辺大知や木竜麻生が好きなので観てみたが。

木竜麻生は、だんだん魅力度が増してきた気がする。彼女の魅力を最大限に引き出せる作品、監督に早く巡り合ってほしい。

 

木竜麻生。30歳になって魅力度up。

「まどろみバーメイド」以来の主演作に期待。

 

第4話『続・かえるくん、東京を救う』

 

佐藤浩市、のん(声のみ)、津田寛治、錦戸亮、奥野瑛太

 

おそらく一番難解だったこのお話。でも色々な情報をかき集めてあらためて思い返すと、様々な暗喩がちりばめられていて、示唆に富んだお話だと理解できる。

 

佐藤浩市は本当に父・三国廉太郎に似て来た。歩く背中など父親の面影を色濃く感じる。

バリっと固い役から今回のようなしょぼくれた役まで、芝居の完成度の高さはさすが。

 

主人公の片桐(佐藤)と、やたら背の高い不気味なかえるくんのみでストーリーが展開される。

脇の役者はみな一流なのに、贅沢だ。(さすがNHK)

のんに至っては声だけだし。。。

そういえば、のんとともに1話には橋本愛が。「あまちゃん」つながりになっている。

 

ちなみにこの背の高いかえるくん、もしかしてと思ったら、中の人は「ガンニバル」で「あの人」を演じた澤井一希。お笑い芸人でマリ人と日本人のハーフ。身長195cmと役は限定されるが、今後も様々な現場で重宝されるかもしれない。

 

人は大きな災厄に遭遇してストレスを感じた時、本来の自分とその自分を客観的に見ようとする自分とに分離するという。

強度のストレスから身を護るための防衛本能だとか。

片桐はずっとそのストレスから逃れるために、本来の自分とは別の存在=かえるくんを作り出していたのかもしれない。

かえるくんと別れたのちの片桐の、何か吹っ切れたような表情は大きな災厄から立ち直った男の顔だった。

 

NHKはこういったドラマを提示することにより、その存在意義を提示していると思う。

ハッピーになれたり、感動したり、考察したりするドラマももちろん良いけど、こういうテイストのドラマも継続して見せてほしい。