黒沢清監督最新作だが、面白いほどにYahoo映画の評価が低い。
それは別にいいのだけど、はたして黒沢清の映画は万人に観てもらうべきものなのだろうか。
正直いって、映画を本当に好きな人以外は観なくていいと思う。
どうせ黒沢監督映画がやっていることや、面白さが理解できないだろうから。。。
黒沢監督って、時代の空気に対して敏感に反応して撮る監督さんなのではないかと思う。
インターネット普及期の時代感がよく描かれていた「回路」に似ていて、Cloudはネット社会の闇を斬新な目線で捉えていると思う。
何とも言い難い、画面全体にのしかかってくるような重苦しい雰囲気と、役者の棒読みセリフは健在、カメラをパンして長回しで役者にセリフを語らせるスタイルなど、オープニングから黒沢ワールドがきちんと用意されているのでファンには安心感を持って作品の世界に入り込んでいける。
そして、なんといっても今回の見どころは当代きっての若手俳優たちの共演だろう。
菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、三河悠冴、窪田正孝。
なかなかに豪華な顔ぶれだ。
そして、みな自分の役割を完璧に演じている。黒沢ワールド風に。
支えるベテランも赤堀雅秋(舞台中心の役者さんだが、最近よくドラマに出演)、吉岡睦雄、矢柴俊博、山田真歩、森下能幸、荒川良々などクセの強い役者さんがそろう。
松重豊や千葉哲也などはちょい役で出演。
名のある役者さんはたったこれだけだ。
いつもモヤモヤと気持ち悪さだけが残る黒沢監督の作品だが、今回もしっかりモヤっている。
全体的にフランス映画のアバンギャルドな雰囲気なのだが、今回は特にそのモヤモヤ感が強い。
それというのも登場するキャラ全員がみな、自分本位で自分のことしか考えていないという設定が色濃いからなのか。
主人公の吉井(菅田)は、とんでもない事件の渦中に身をさらされながらも、気にしているのは転売稼業の成り行きと金だけだ。
吉井の恋人の秋子(古川)も、最後の最後に金にしか興味がないことを暴露する。
古川琴音演じる秋子は、その何を考えているかわからない不気味さとコケティッシュな妖艶さが光る。彼女ならではのキャラだ。
吉井を殺すために集まった見ず知らずの男たちも、各々身勝手で自分本位な者たちばかりだ。常人には理解しがたい人々なのだが、ネットの世界の裏側に潜み、顔も名前も晒さずに、他人に罵詈雑言を浴びせたり誹謗中傷する人たちの具現化なのだろうか。
そんな中で唯一、自分の意思を表明し自らの責任で動くのが謎の少年・佐野(奥平)だ。
黒沢監督作品には、ヨーロッパ映画によくみられる悪魔の登場というのがある。
キリスト教において、悪魔は人間をそそのかす存在。
この映画における佐野は、まさに悪魔だ。
悪魔は最終的に、吉井以外の人間を皆殺しにしてしまう。
無垢な存在のように見せかけて、実は一番悪に近い存在であった。
佐野に拳銃を渡す謎の男(松重)も、黒いコートを着て不気味な存在だ。
ちょい役出演の松重豊。黒一色で長身。
ヨーロッパ映画に出てくる悪魔っぽい。
しかし実は一番怖いのは、転売屋という仕事をまったく悪いことだと認識していない吉井なのかもしれない。
悪魔よりタチの悪い存在として、吉井のイノセンスを帯びた暴走は、何者にも代えがたい恐怖なのだろう。そしてそんな男が行きつく先はラストシーンのつぶやきにあるように、地獄かもしれない。
菅田将暉と古川琴音の共演は、「コントが始まる」以来か。
また菅田将暉は「3年A組-今から皆さんは、人質です-」、窪田正孝は「宙わたる教室」で共に魅力あふれる教師役をやっていたのも記憶に残る。
黒沢ワールドと実力ある若手俳優陣のコラボレーションは見ごたえある作品となって結実した。監督の御年を考えると、新作を見られるのもあと少しかもしれないが、できる限り新たな黒沢作品を生み出してもらいたい。