映画を愛する人たちが、低予算で夢を成し遂げる。
過去においても、古くはS・スピルバーグが作った「激突!」や、最近では「カメラを止めるな!」など古今東西、枚挙に暇がない。
本作は時代劇、とりわけ殺陣の世界を愛する人にはたまらない映画だ。
MATTにとってはよくぞ作ってくれたと心から感謝の意を表したい作品であり、ずっと観たかった作品だ。
監督の安田淳一は愛車だったNSX含む私財を投げうって、この映画に投資し、東映京都撮影所はその熱意と脚本の面白さに全面協力したらしい。
安田監督にはホンダの社員を代表してNSXを贈呈したいくらいだ、、、笑
また監督以下、ヒロインの沙倉ゆうのや俳優、スタッフがそれこそ手弁当で作り上げたとのことで、製作費は破格の2600万円。名の知れた俳優は一握りしか出ていない。
しかしこれだけの面白い映画ができて、興行収入は10億円。
心より敬意を表したい。
映画自体は130分と尺が長く、やや饒舌に感じる部分もある。
もう15分ほど短縮しても映画としては問題なく、かつその方がスッキリしていたかもしれない。
だが、そんな細かいことはどうでもよくなるくらい、視聴後の清涼感が半端ない。
映画鑑賞という時間が、その人にとって幸せな時間だったかどうかというのが大切であり、その点この作品はまさに映画らしい映画といえる。
主演の高坂新左衛門役の山口馬木也は、キリリとした男前だが52歳のまったくの無名俳優。
風見恭一郎役の冨家マサノリも顔はよく見るが決して著名俳優ではない。
ヒロインの山本優子の沙倉ゆうのに至っては、まったくの無名だ。
沙倉ゆうの。
決して演技が上手というわけではないが、とてもキュートな女優さんで本作のヒロインとして存在感あり。
ちなみに映画冒頭の撮影シーンでチンピラに絡まれる町娘・うめ役の女の子がとても可愛い。
沙倉ゆうのの姪っ子さんだとのこと。。。
著名な俳優というと、井上肇くらい。
斬られ役の俳優で出ていた安藤彰則も「ガンニバル」の刑事役で出ているが、ほぼ無名だ。
今回は出演俳優さんを記述する手間がほとんどないので楽である。。。笑
先に書いた通り、会津藩士の高坂が憎き敵の長州藩士・山形彦九郎との決闘の最中に現代の京都にタイムスリップしてきて、戸惑いながらも平成の時代と人に馴染み(設定は2007年)、撮影所で斬られ役の仕事を始めるまではスローテンポだ。
笑いの要素は控えめだったのが、中盤で高坂が所属することになった「剣心会」の殺陣の師匠・関本(峰蘭太郎)との殺陣の稽古のシーンになった時に初めて声を出して笑える盛り上がりが来る。その後の展開はまさに笑いあり、涙ありで忙しい。
終盤近くで一流俳優の風間が実は高坂より30年も前に同じようにタイムスリップして現代へやって来た山形彦九郎だったという驚愕の事実が明かされたのちは、時代劇を、もののふの精神を大切にする二人の侍の熱い物語が展開される。
共に近代社会においては忘れ去られていく運命にある、侍の生きざま・精神と時代劇というふたつの要素を時空を超えて絡め合い、一級品のエンタテインメントに仕立て上げた。
その原動力となったのは安田監督はじめ、映画を時代劇を愛する人々の強い情熱だった。
多くを語るより、まず観てくれといいたくなる映画はそうそうない。
殺陣の世界に生きる人たちの想いや、見えざる世界を観てもらいたい。
本作を映画製作のレベルの視点から評価しない向きもいるようだが、それはどうかと思う。
映画と言うのは多様性に富んだ表現手段を持っている。
芸術的なものもあれば、情熱や愛だけで成り立っているものもある。
画一的な視点での評価の末路は、現代ハリウッドのような商業主義のステロタイプの映画の量産だ。
かつてはハリウッドも多様な表現、スタイルの映画で華やかな時代があった。
日本映画界もそうだ。
この作品が映画の本来の姿と未来の可能性を見直すきっかけになってほしい。
クライマックスでの二人の殺陣のシーンは見ごたえある。
向き合ってから数十秒動かないという緊張感。
真剣の重さを最大限表現したかった、というだけあり刀のぶつかる重さが伝わってくる。
二人の侍の気迫がスクリーンからあふれ出る名シーン。