3・11を題材にしたドラマを、阿部寛と白鳥玉季が共演すると知って、避けては通れないと思い録画しておいたのを観た。
前編・後編の100分の物語をよくこんなにコンパクトにまとめたな、と思ったが数々の脚本を書いている港岳彦によるものと知り、納得した。さすがうまい。
日本には太平洋戦争、阪神淡路大震災、そして東日本大震災など風化させてはならない、大きな事件や事故がいくつかある。
次世代に受け継ぐ物語は、悲しい過去の記憶を悲しいままにするのではなく、生き残った人たちの光となるような作品であるべきであり、このドラマもそういった想いがたっぷりと詰まったものとなっている。
阿部寛は木村拓哉のように、どのドラマに出てもいい意味で阿部寛である。
彼が演じると物理学者も変人の建築家も、警察官も、作家先生も、そしてタクシー運転手もすべて阿部寛だ。
でも阿部寛が演じる●●キャラ、というのがひとつのブランドになっている。
だから本作のタクシー運転手役も、こんな濃い顔のタクシー運転手は実際にいそうにないのに、阿部寛ブランドなら観て見ようという気になる。不思議な役者さんだ。
白鳥玉季はやっぱりすごい。
子役の頃から実力は折り紙付きだったが、本作でも阿部寛を相手に堂々とした演技。
少し見ない間にちょっと大人っぽくなって、時折見せる表情も大人顔になってきた。
心に傷を負って不安定な年頃の生意気な女の子、でも前向きに生きようともがいている、という難易度高い役を、こんなに上手く立ち振る舞えるとは、やはり将来楽しみな逸材だ。
白鳥玉季。
次世代の朝ドラヒロインの筆頭格と見ている。実力と華は折り紙付きだ。
妻と幼い娘を震災で失った(行方不明)タクシー運転手・大林(阿部)が、ひょんなことから死者の声を聞くことができる不思議な力を持つ少女・りら(白鳥)を乗せところから、テンポよく話が進んでいく。とはいってもりらの能力がオカルティズムにあふれているわけではない。
あくまでも話を前に進めるための一つの道具に過ぎない。
また一方では、途中ドキュメンタリー的に実際に震災で家族を失った遺族の方が出てきて阿部寛と対面するシーンなどがありチャレンジングな演出になっている。
大林とりらが不思議な力に導かれ、亡くなった妻(松下奈緒)が残した曲のスコアを集めていく過程で、妻が何を夫に残したかったかがだんだんわかっていく。
ラストの小さな音楽祭までのその過程と、音楽祭での演奏を完遂するまでが感動的に描かれる。生き残った人たちが、前向きに生きるための希望の光がそこにはあった。
東北出身の菅原大吉や前原晃といった役者さん、加藤登紀子、山中崇、キタキマユ、宇野祥平、中川翼、山本浩司、松岡依都美(「地面師」で好演)らが共演。
毎年こういった形で震災があったことを思い出し、確かにそこに人々の生活があり、今も前向きに生きようとする人たちがいることを胸に刻んでいきたい。
震災後半年たって陸前高田にボランティアに行った。もうあれから14年経つ。
東北は学生時代に一人旅行した思い出の地だ。
近いうちに必ずまた訪れてみたい。