まず、やっと民放の連ドラで芳根京子の魅力を引き出すことに成功したドラマだったと言いたい。所属のジャパン・ミュージックエンターテインメントが、それほど多くの女優さんを抱えているわけではないようで、エースの京子ちゃんの主演作を厳選しているのでは、と囁かれていた。
小芝風花がそうであるように、芳根京子もまた様々なドラマで主役ではなく、共演者としていろんな役を演じ演技力、表現力を高めて女優として成長してきた。
彼女の演技力は折り紙付きだ。そして華もある。もっと良いドラマ・映画で主演を張るべきだ。
コミックエッセイを原作とした医療系ドラマ。
研修生の葛藤を描いたドラマとしては「祈りのカルテ」や「泣くな研修生」(これは未見)があるが、この作品はコミカルとシリアスを上手く織り交ぜてコンパクトな作品として完成度が高い。
脚本もまずまずよかったが、芳根京子を支える共演者の俳優陣が実に上手かった。
研修医仲間には高橋ひかる、大西流星、小西桜子のフレッシュな面々と、曲者俳優の吉村界人がスパイスに。
研修先の病院のドクターは個性豊か。
奥田瑛士、佐藤隆太、木村多江、赤堀雅秋のベテラン陣と、芳根京子演じるまどかのメンター的位置づけの鈴木伸之、森カンナ、堀田茜、溝端淳平、板倉俊之らが脇を固める。
いわゆる「Z世代」の医者のタマゴたちと、昭和な働き方を良しとするベテラン医師たちとの間の様々な摩擦をもとに、医療、医者、そして命とは、といった本質的なテーマを考えさせられる構成となっている。
だがそこは民放ドラマ、重すぎず軽すぎずといった味付でありTBSらしくバランスは良い。
それは医療やそこで命を削るように働く医師の姿を真正面から捉えつつも、若い医師たちのリアルな青春や恋愛も取り入れて描いていることからもわかる。
お仕事ドラマに恋愛はいらないのでは、とも言えるが個人的には自然な形であればよいのでは、と考える。
まどかと菅野(鈴木)、麻酔医の本郷(溝端)と千冬(高橋ひかる)の恋、桃木(吉村)と萌(小西)の恋はそれぞれにストーリーがあり、リアルな職場でもありうるような見せ方なので納得はいく。
ゲスト陣は小松利昌、田畑智子(この人が医療系ドラマに出るのはずるい。泣かせるのがうますぎ)、近藤芳正、田中真弓、六角慎二、佐々木希、新井美羽(スカイキャッスルで好演)、朝加真由美、松下由樹、望月歩、鞘師里保など。
特に末期ガン患者の吉岡を演じた金田明夫はベテランバイプレイヤーの面目躍如の名演。
最終話、角田部長(奥田)の手術の対応に気を取られ、まどかが吉岡の最期を看取ることができず、泣き崩れるというシーンがあった。
芳根京子の泣きの演技は一級品なのだが、背景に金田明夫の末期ガン患者の心の辛さを吐露する迫真の演技があったからこそ。
この出来事をきっかけに、まどかは角田部長のいる泌尿器科に進む決意をする。
良い役者による良い演技が生んだ素晴らしい最終話だったと思う。
先日観た「TRUE COLORS」の中原丈雄しかり。
主役だけでは劇は成り立たないということ。
MATTの中では医療ドラマの最高峰は「透明なゆりかご」、良作は「コウノドリ」、「アンサング・シンデレラ」があるが、このドラマは肩肘張らず見られる医療ドラマとして、良い作品だったと思う。
そして、くどいようだが芳根京子の魅力を最大限に引き出したという点でも良いドラマだった。
芳根京子はキュートさばかりに目が行ってしまうが、実は表現力がすごく豊か。
NHKによる重厚なドラマでの主演を望む。