全てではないが、バカリズムの主要な作品は見ている。

一番好きなのは「殺意の道程」かもしれない。

いや、この作品が好きというより、窪田一馬を演じた井浦新が好きだったのかもしれない。

 

バカリズムの作品は、基本的に冒険はしない。

当然それぞれ異なる脚本の作品だが、基本的には既視感あるマンネリを堂々と提示してくる。

それは裏を返せば自分が提示している大いなるマンネリは、こんなにも面白いぞ、という自信の表れなのかもしれない。

そしてファンもそのマンネリが中毒性をはらんでいるのを知っている。

少なくともMATTのようについつい見てしまう人間は、自ら中毒の沼にはまりに行こうとしているのだろう。

 

バカリズムらしいナンセンスSFの設定は健在であるが、なんといっても今作はこれでもか、といわんばかりの実力派曲者女優の全部乗せ的キャスティングが素晴らしい。

 

市川実日子を主演に据える時点で、玄人受けを狙っているとしか思えない。

そこに鈴木杏と平岩紙を据える。これはこれで唸らされる配役だ。

「ブラッシュアップライフ」の安藤サクラ、夏帆、木南晴夏の3人を超えるマニアックな組み合わせに、思わず悶絶したのはMATTだけではないだろう。

 

さらに畳みかけるように出てくる友人たちも超絶なキャスティングである。

木南晴夏、夏帆(またこの2人を、、、)の再登場、そこに志田未来、山田真帆にMEGUMI。

もうこれだけでおなかいっぱいである。

彼女らが一堂に会してフレームに収まっているのを見ると、何かの奇跡かと思ってしまう。

 

また、菊地凛子、坂井真紀、筒井真理子というベテラン女優陣も豪華。

野呂佳代もスパイスのように添えられ、安藤サクラや三浦透子といったおなじみ女優陣もスポット参戦。

 

これだけの曲者女優陣に対抗する男優陣も負けていない。

宇宙人・高橋役の角田晃広は、役がはまるとこれほど面白い俳優さんはいない。

高橋という男の器の小ささと心の広さ、この相反するアンビバレントな人格を平然と演じる角田の演技力には脱帽だ。市川実日子も彼女の良さを引き出していたが、角田の演技の前に霞んでしまうことも度々あった。

 

「A Table!」での中島歩との夫婦役は、彼女の魅力を一番堪能できる作品だと思う。

 

小日向文世、池松壮亮、野間口徹、前田旺志郎、田中直紀、吉村界人、眞島秀和、前野朋哉、大倉孝二らの有名俳優のみならず、清水伸、大河内浩、勝矢、谷川昭一郎と言った渋い面々もドラマファンには嬉しい。

 

ほかに山本耕史や井之脇海、中嶋ひろ子、うらじぬのなどちょい役での参加も憎い。

 

巧みな演出、ユニークな脚本、突飛なエピソードや伏線などばかり話題になるバカリズムドラマだが、実はキャスティングの妙と、それに応えて楽しそうに演じている俳優陣を見るのが、バカリズム作品の醍醐味ではなかろうか、と思う。

 

それからもうひとつ。

今回の作品で特に面白かったのは、清美(市川)・葉月(鈴木)・美波(平岩)の3人と、高橋(角田)の会話シーン。

軽妙かつ、あるあるな会話はバカリズムの定番だが、今回は女性と男性の思考プロセスの差を際立たせるシーンが特に映えていた。

この永遠に埋まらないGAPにもがく高橋を見るのが本当に可笑しい。

 

「架空OL日記」「ブラッシュアップライフ」では女性同士の会話、「殺意の道程」は男性同士の会話。それぞれ面白かったが、今回の男性と女性の会話シーンは、日常でも起こりうる性差による意識のGAPと、そこから生まれる緊張感がとても興味深く、さすがバカリズムと思わざるを得ない。

 

小難しい分析より肩の力を抜いて楽しむのが、バカリズム作品鑑賞の正しい見方だろう。

次回作はマンネリの中にどんな仕掛けをしてきてくれるか。

楽しみだ。