この冬ドラマはNHKの独り勝ちだ。

「TRUE COLORS」 「東京サラダボウル」ともに、作り手の熱意とメッセージ性、俳優陣の実力、脚本、音楽、すべて素晴らしかった。

同様のクオリティで先日最終話を迎えたのが、「バニラな毎日」。

 

ドラマ部に異動してまだ数年の若い製作者の企画で始まったこの作品。

原作の良さを引き出す演出や、リアリティを追求した設定、ロケハンなどNHKらしい真面目なドラマ作りに、蓮佛美沙子、永作博美ら実力ある俳優陣が文字通り全身全霊でこたえた。

 

 

最近の夜ドラは良作続き。

このドラマは昨今よくテーマになる「生きづらい世の中」を、一人の職人肌のパティシエを通じて鋭く抉り出している。

 

白井葵(蓮佛美沙子)という女性は、今の日本の代表的な「頑張り屋さん」の姿だ。

自分でなんでもやろう、人に頼りたくない(頼るのは申し訳ない)、頑張ることでしか夢は実現できない。

ただ、行き過ぎた「頑張り」のあまり孤独に陥り、周りの人たちからの距離が遠くなり、気が付けば夢からも遠のいていく。

 

冒頭でそんな息苦しい状況の白井を見せつけられ、いたたまれなくなってしまう。

そこに現れる不思議な「大阪のおばちゃん」、佐渡谷真奈美(永作博美)。

この佐渡谷の人物設定も、先の記事によるとリアリティあふれる設定が施されている。

彼女のキャラは同じNHKドラマの「半径5メートル」を思い出す。

芳根京子演じる若い編集者の良きメンターになり、主人公の世界を広げる役割だった。

 

物語はこの二人の出会いによって、お互いの人生が大きく変わっていく様を個性的なゲストとお菓子作りのシーンを絡めながら進んでいく。

 

劇中に出てくるお菓子はどれも素晴らしく美味しそうで、スイーツ好きには毎回たまらない。

オペラやタルトタタンなど見ていて、次の日に買いに行こうかと思ったほどだ。

それだけドラマの重要なアイテムであるお菓子にも、妥協を許さない演出が図られている。

 

共演の秋山静役の木戸大聖はフレッシュな演技で好感。

ゲストの土居志央梨、伊藤修子、和合結衣、中島ひろ子、大橋梓に加えて、白井の人生に大きな影響を与えた母親役に筒井真理子と谷村美月(母の)若い頃という、豪華な配役。

 

和合結衣。今話題のDEIの流れから今後も活躍してほしい女優さん。

 

原作、脚本、演出どれも素晴らしい中で、やはり主演の蓮佛美沙子と永作博美の実力ある女優さん2人の確かな演技がこのドラマの大きな魅力だ。

 

実際の社会では、多くの人が白井のように頑張り過ぎるあまりやがて夢破れてつぶれていくのだろう。佐渡谷のような救世主が現れるのはまれなことであり、だからこそこのドラマのストーリーがカタルシスを生む。

 

そのストーリーを説教臭くなく、また意識高いように見せない、というのは難しい。

リアリティを求めればどうしても演者に力が入ってしまう。

だが蓮佛、永作の二人の演技はどこかコミカルだ。人間臭い。実際に身の回りにいそうなキャラのように演じている。

この2人の実力者が主演で良かったと思えるゆえんである。

 

劇中での白井は強く生きようともがき、佐渡谷や秋山の優しさに触れるたびによく泣く。

それもポロポロと大粒の涙を流して。

蓮佛美沙子の泣き方がまたいい。ぐっと我慢して我慢して、最後に我慢しきれずにぽろっと出る涙。こういう泣き方が本当に上手な女優さんであり、だからこその抜擢と思う。

蓮佛美沙子。大好きな女優さんの一人。これから活躍の場が増えそう。

 

永作博美は今回の作品でも「変なおばちゃん」役で爪痕を残した。

小柄で童顔というと安達祐実もそうだが、ともに演技派であり女優としての独自のポジションを作りつつある。もはや欠かせない存在ともいえよう。

 

最終週29~32話はほろっと泣かせるいいお話が満載。

実勢に障碍者でもある和合結衣演じる結杏が白井に投げかける一言、白井が佐渡谷のフランス行きを後押しするシーン、秋山から右手が動いているのを指摘され涙するシーン。

どれもそれまでの白井の頑張りがあったからこそ、涙を誘われる。

 

続編も観たくなるほど、夜ドラ史上でも記憶に残る名作となった。