板谷由香主演というのがとても興味深く観てみた。

彼女の演技や存在感がとても好きなのだ。

 

監督の高橋判明は、ピンク映画出身の根っからの映画人。

また「TATTOO<刺青>あり」などでも有名だが、早稲田で学生闘争に参加していた経歴からわかる通り、今回の作品でも反体制色がうかがえる。

 

大西礼芳、土居志央梨といった京都芸術大卒の女優さんが出ているのは、高橋監督自身、一時期映画学科長を務めていたからだろう。

 

コロナ禍で貧困にあえぎながらも、必死に生きる一人の女性を描く。

バイト先を一方的に解雇されて、半ばホームレス状態になりながら路上生活を送るという壮絶な人生を、板谷由香が文字通り体を張って演じている。

高橋監督は、板谷由香のリアリティある演技にいたく感服したらしい。

確かに、悲壮感というよりも、ただ必死に今日を生きるために何かに食らいついていくような表情の板谷の迫力に圧倒される。

 

相対的貧困率がG7中ワースト2位の日本。

劇中、板谷演じる三知子が柄本明演じるバクダンと呼ばれているホームレスの男と日本の政治について語り合うシーン。

ポロっと「こうなってしまった自分も悪いんです」と言うセリフがある。

 

日本人はなんて奥ゆかしいのだろうと思うシーンだ。

海外では、おそらくこんな言葉は出てこない。

だからストライキが起きたり、暴動が起きたりする。

自分も含めて現状に甘んじて、何も行動を起こさない日本人。

国は決して声をあげて暴れない国民を、ずっと未来永劫飼殺すつもりだろうか。

 

三知子はバクダンに向かって、成田闘争に参加していた時のように闘おう、爆弾を作ってくれと依頼する。

バクダンは賛同してついに新宿副都心に爆弾をしかけるが、それは偽物でただの目覚まし時計だった。緊張が高まった展開だったが、観ている方もホッとしたシーンだ。

しかし、三知子の気持ちは高ぶったままだ。

 

大西礼芳演じる三知子のバイト先の店長の千春は、狡猾で悪人のマネジャー(三浦貴大)が横領した三知子らの退職金を、彼女なりの正義感で会社から再度もらい受ける。

そしてそれを三知子に渡すのだが、、、、

退職金を受け取った彼女が千春に言った言葉は、爆弾を作りませんか?だった。。。。

 

大西礼芳。

この映画での彼女、三知子同様正しく生きる女性を好演。よかった。

 

劇中のある言葉が胸を突いた。

それはホームレスの老人が三知子に語った言葉。

「眠りについて、明日、目が覚めなければいいのにと思う」

こんな日本に誰がした。そう思いたくなるシーンであり、モヤモヤが後を引く。

だからこそ何とも辛辣なラストシーンだが、スカッとする幕引きだったと思う。

 

主要な出演者はほかに、柄本祐、ルビー・モレノ(随分恰幅よくなってびっくり、、、)に加え、片岡礼子、筒井真理子、あめくみちこ、根岸季衣らベテラン女優も多数出演。

 

1時間半あまりの尺に密度の濃い物語を詰め込んで破綻しないあたりは、高橋監督の老練によるものだ。こういう映画をもっと観たい。