冬ドラマの中でベストの一品がこのドラマ。

 

源孝志の「わたしだけのアイリス」が原作で、ドラマも脚本・演出を担当している。

過剰な感情表現を極力抑えた演出が、舞台となった穏やかな天草の海と相まって、ドラマ全体に流れる空気感にもつながっている。

ちなみに原作のタイトルにもなっている「アイリス」とは英語で「虹彩」を意味する。

 

このドラマが素晴らしいのはタイトルにもなっている通り、天草の自然を映し出す、息をのむほどの色彩の美しさだ。4Kドラマだが録画で観ていたのでもったいないことをした。

一度だけリアタイで4Kチャンネルにして観たが、やはりリアタイで観るべきだったと激しく後悔した次第。

 

物語は前半3話くらいまで東京が舞台で、この前半部がゆったり動くのでここで離脱しかけた。だが「ドラマは3話から」が持論なのでじっくり見て行くと、後半の天草パートが本当に素晴らしく、途中で観るのをやめなくてよかった。

 

ファッション業界で著名なフォトグラファー・立花海咲(倉科カナ)は色覚異常の診断を受ける。

これまで支えてきてくれたファッション誌編集長であり愛人でもある巻上(滝藤賢一)に知れると、彼は海咲を見限って大口契約も打ち切ってしまう。

 

これまで身を削ってここまで上り詰めた海咲は輝く未来も居場所も失ってしまい、失意のどん底で20年近く離れていた故郷の天草・崎津に帰る。そしてこの帰郷が彼女の人生を大きく変えることになる。

 

「色覚異常」と言う言葉を今まで何気なく使ってきたが、色覚とは人それぞれの個性であり、同じ色を見ていてもすべての人が同じ色に見えているわけではない、という話が劇中であった。

すなわち、人が色を観るときに「絶対的に正しい色」など存在しない、ということ。

色の見え方はその人の「個性」なのだ、と。

これがこの作品のテーマなのだ。

だから、ドラマのタイトルも「TRUE COLORS」でしっくりくる。

 

海咲が天草を飛び出して東京に行ったのには理由があった。

海咲が高校生のころ、漁師の父・勝男(北村一輝)が海難事故で亡くなった。

それだけでも不幸であるのに、あろうことかその事故の相手方の大型船の船長だった辻村(渡辺謙)と母親(賀来千香子)が結婚してしまう。

このことに納得がいかない海咲は、高校卒業と同時に家出同然に東京に出て行く。

 

天草に戻ってからはこの複雑な家庭事情の中で、母親、義理の父、そして愛情を注いでいた妹との葛藤と、友達以上恋人未満の関係の昌太郎(毎熊克哉)との邂逅が描かれる。

後半の白眉はずっとわだかまりを持っていた義理の父と母親、妹との関係が、海難事故の真相をもう一人の事故の当事者だった昌太郎の父・松浦(中原丈雄)の独白によって海咲に伝えられたことから、彼女の心の中の澱が徐々に消えていき、ゆるやかに修復へと動き出す。

 

このあたりの展開がとても心に響いてきて、後半は本当に毎回感動を感じながらの視聴だった。天草の美しい風景、穏やかな海、心優しい人々など、前節のTBSの名作「海に眠るダイアモンド」とかぶるのだが(あちらは長崎)、MATTにとっては、このドラマの方が心に深く感動が刻まれた。

 

最終話、家族との心の溝を埋めることができ、自分の生きる道にも自信を持てた海咲が、辻村の乗る連絡船に乗って帰る途上、昌太郎が漁師たちの船を引き連れて海咲の門出を祝うシーンは、ドラマの感動の頂点ともいえる。

天草の美しい青い海と空に映える沢山の漁船と大漁旗。

まさにこのドラマのテーマである「色」が大きく花咲いた瞬間であった。

 

色といえば、本当に美しい色を描くことにスタッフが執心したのが垣間見える。

天草の青い海をバックに黄色のコートを着て立つ海咲や、教会のステンドグラスからの光に映える、伊藤歩演じる涼子が着る深いブルーのスーツなどのショットは本当に素晴らしい。

 

出演者はこれまで書いた主要メンバーのみならず、素晴らしく豪華なキャスティングである。

常に海咲と昌太郎を支え見守り、迷った時に道を示してくれる高校時代の美術教師に加藤雅也、その妻にシルビア・グラブ(高嶋政宏の妻)。

 

東京編では、要潤、森田想、森永悠希、名取裕子、石橋蓮司、浜田信也、石川瑠華など、ベテラン、若手の実力派がそろう。

 

天草編では、宮崎美子、玉置玲央、高嶋政宏らや海咲の妹を話題の映画「SHOGUN」でも注目された穂志もえかが演じている。

彼女は楚々とした美しさが魅力の注目の女優さんだ。

穂志もえか。古風な佇まいが美しい、魅力的な女優さん。

 

また海咲の少女時代を上坂樹里が演じている。TBS「御上先生」でも好演しており若手成長株の一人だ。

 

皆素晴らしい役者さんたちだが、天草編では、渡辺謙、中原丈雄、そして加藤雅也のベテラン勢が本当に素晴らしかった。

渡辺謙、加藤雅也のすごさは当然だが、バイプレイヤーでは一流の中原丈雄のお芝居が天草編を語るうえでは外せない。それほど辛い過去を背負った年おいた漁師を演じた彼の芝居が素晴らしかったと思える。拍手を送りたい。

中原丈雄。このドラマの隠れたMVPと思う。

 

実は最終回はもう少し続きがある。

ラストシーンから2年後、イタリア・フィレンツェに絵の修行に行った昌太郎を追った海咲が彼とワイナリーにあるレストランにあるテラスで会うシーン。

ここで、昌太郎が海咲に向かって「目の前に天使がいる」というセリフとともに、黄金に光り輝くワイナリーをバックに微笑む海咲=倉科カナが、本当に美しい。

倉科カナちゃん、演技力と美しさを兼ね備えた最強の女優さんになった。

 

ちなみにラストの

このセリフにはその前のシーンからつながる粋な伏線があるのだが、それとも相まって素晴らしいラストシーンとなった。

 

最後に、主題歌はシンディ・ローパーの名曲「TRUE COLORS」。

「あなたの本当の色」「それはとても素敵なの」

という歌詞が心に沁みる。

海咲は、天草で本当の自分の色を見つけ愛することができた。

そして彼女は力強い人生の船出を決心する。

 

 

良い脚本、演出、役者、そして音楽がそろう、超一級品のドラマだった。

それにしても、天草・崎津。美しい。行ってみたくなった。