この冬ドラマでは、NHKドラマが秀作ぞろいだ。
「東京サラダボウル」 「TRUE COLORS」 「バニラな毎日」
3作ともさすがNHK、とドラマ好きをうならせるクオリティ。
「クロサギ」などの黒丸による漫画がベースだが、こんなに面白い作品なのに原作は打ち切られてしまったらしい。もったいないと思う。
東京の中でも最も多様性に富む街・新宿を舞台に、増加する外国人犯罪を通じて日本の社会と日本人が抱える様々な問題を可視化していく。
30年前の東京は、地方に比べて外国人と遭遇する機会は多かったものの、今ほどではなかった。だが今や東京のみならず、ここ宇都宮のような地方都市でも外国人が生活にかかわらないことはほぼない。
日本という国は知らない間に外国人と共生する社会になっていた。
物語のベースは、派手なグリーンの髪の毛で、およそ警察官に見えない鴻田麻里(奈緒)と、かつて刑事だったがある事件を機に警察の中国語通訳に転じた有木野了(松田龍平)のバディで様々な外国人の抱える問題を解決していくストーリー。
そこに有木野自身の過去の事件の秘密が絡み、外国人問題を真っ向から取り上げつつも、刑事ものとしてのエンタテインメント性も加わっていく。
途中まで鴻田と有木野が良い雰囲気になっていくのかと思いきや実は、有木野は刑事時代の同僚・織田覚(中村蒼)と恋人同士であったことがわかり、二人の間に恋愛感情が起こりえないことを知る(でも、きっと鴻田は有木野のことを好きだったのだろう)。
だが、この有木野と織田の関係が最終話で織田が自殺するきっかけとなるという伏線となっているあたり、なかなか憎い。
キャンディという中国人留学生の女の子が事件に巻き込まれる1話、梅舟惟永演じる中国人の夫婦の2話、浜野謙太演じるサラリーマンと中国人妻の夫婦の子供が誘拐される3・4話。この話では台湾の人気俳優・張翰の演技が出色で、故郷の家族を思う不法滞在の中国人の悲哀を全身で表現していて、感動を呼んだ。
5話はティエンというベトナム人実習生と日本人青年の友情を描く。
6話は鴻田の少女時代のお話。鴻田と仲のよかったスヒョンという在日韓国人女性との悲しい思い出。
どのエピソードも鴻田のマイノリティに対する優しい眼差しが心に染みる。
その母性を感じさせる包容力は、奈緒の表現者としての懐の深さによって鴻田という異端の刑事の存在にリアリティを持たせることに成功している。
奈緒。
最近の彼女の演技者としての成長がすさまじいと思う。
このドラマでの鴻田のリアリティは半端ない。泣きの演技だけではなく、どんなシーンでも常に鴻田であり続ける奈緒の演技力に感動。
また有木野は自身が性的マイノリティであるからこそ、外国人に対しても鴻田と同様に優しくあれるし、その佇まいを松田龍平がナチュラルに演じていてこちらも好感が持てる。
そして後半のキーとなる刑事・阿川を演じる三上博史が存在感を見せてくれる。
わずか数話の登場だが、志持った刑事がふとしたきっかけで闇に取り込まれていき、もがき苦しんでいくという人生を演じ切っていて、その何とも言い難い奥行きの深さが印象的だった。
7話以降は中国人闇社会で暗躍するシウ(絃瀬聡一)と阿川との関係と過去の事件の清算というクライマックスに向かっていく。
このドラマがすんなり心に入ってくるというのは、やはり我々の身の回りがすでに外国人と共生する社会になっているからだろう。
職場で、飲食店で、観光地で、宿泊先で、学校で、、、どこででもそれは自分の生活の中での問題となっている。
だからこそ、このドラマの描く世を身近に感じ、起こっていることや人々の感情に寄りそうことができる。
その他出演者は警察関係者に、皆川猿時、中川大輔、イモトアヤコ、平原テツ、武田玲奈、関口メンディー、阿部進之介、そして監察官の三浦誠己が渋い。
また、朝井大智はバーのマスターで存在感。
ゲストに安井順平、マギー、信田昌之、星野真里、安藤玉恵、水間ロンなど。
コウメ太夫がすっぴんで出ていて、普通のおっちゃんだったのが妙におかしかった。
原作のテーマ性、才能あふれる脚本家・金沢知樹、そして奈緒、松田龍平、三上博史といった実力派俳優の演技力すべてがそろい、完璧な出来の本作。
心に残り、続編も期待したい推しの一品といえる。