ヤマシタトモコの原作は、主人公たちの心の機微が繊細に描かれた良作なのではないだろうか。

映画を観ていて、小説家の槙生(新垣結衣)と、その姪の朝(早瀬憩)の心の交流と、お互いに自己の殻を破って成長していく過程を描く時間が短かったので、物足りなさを感じた。

きっと、この作品は連続ドラマでやるべきだったのだろう。

アニメもあるようなので、そちらの方が良いのかもしれない。

 

とはいうものの、「HOMESTAY」がなかなか良かった瀬田なつきが監督・脚本・編集、「ドライブ・マイ・カー」を撮った四宮秀俊が撮影監督とスタッフはいい。

また人見知りで不器用、家族との関係性に問題を抱える難しい役を新垣結衣が好演し、交通事故で亡くなった槙生の姉の娘・朝を、新人の早瀬憩がフレッシュに演じている。

 

ガッキーがこういった役をやるのは意外だったが、前年に「正欲」などでも主演し、女優として幅広い役にチャレンジしている途中だ。

今回の役もバチっとはまったようには見えなかったが、見た目の幼さで演技の幅が拡げられなかった彼女、まだまだこれからだと思う。

 

新人の早瀬憩は、演技がどうこうというより空気感を大事にしてほしい。

朝のような思春期の少女特有の瑞々しさ、自己と他者の間で揺れ動く自我など、自身をそのままさらけ出すような演技というのだろうか、そういったところが評価されたのだろう。

 

早瀬憩。

「ブラッシュアップライフ」「うちの弁護士は手がかかる」「ユーミンストーリーズ」「虎に翼」「約束 〜16年目の真実〜」「からかい上手の高木さん」と、23年以降ドラマに立て続けに出演。

正統派美少女ではないものの、ある種の華を持っている。様々な役を通じて大きく成長してほしい女優さん。

 

物語は朝の両親が彼女の眼前で起こった交通事故で亡くなり、その葬式の席で親戚にたらいまわしにされ引き取り手が無く途方にくれていた朝を見て、槙生が勢いで行くところが無いならうちにおいでと同居を提案したことから始まる。

 

小説家で人付き合いが苦手な性格で、自分に強く当たる姉のことを嫌っていた槙生と、母親にやや抑圧されていて、自分に自信が持てない引っ込み思案な性格の朝という、少々面倒な二人による奇妙な同居生活。

お互いの接点が見つからず、最初のうちは衝突し、すれ違い、遠くから互いを見るような関係だったのが、様々な出来事を通じて徐々に心を通わせていく。

この過程がとても大事で見ごたえあるのだが、残念ながら139分の尺では描き切れない。

NHKあたりがドラマ化してくれないか、と願う。

 

瀬戸康史や染谷将太、夏帆らが出演しているが本筋にはあまり影響しない役どころ。

正直贅沢な使い方だ。

槙生、朝の親族には銀粉蝶や中村優子というベテラン勢。そのほかに吉本菜穂子、小宮山莉渚、伊礼姫奈など。

 

誰もが心の中に他人にはわからない、知られたくないヒリヒリとした傷跡がある。

そして、それは自分自身触れないようにと大事に心の奥底にしまい込んでいて、決して向き合うことはない。

槙生と朝が徐々に心を通わせる中で、お互いの心の底に眠る何かに向き合わざるを得なくなる。実里が朝に残した日記には、朝への愛情とともに槙生のことも書かれていた。

日記を見て、心の中にあったわだかまりや目を背けていたものの正体が見えてくる。過去から未来へと二人の目線は変わっていく・・・・

 

銀粉蝶演じる槙生の母・京子や、朝の親友で女の子と付き合っているえみり(小宮山莉渚)、槙生の元カレ・笠町(瀬戸康史)らとの交流をもっと描けたら、より深みのある作品になったのだろう。

ぜひ、ドラマ版も見てみたい良作だった。