NHKらしい、地味ながらもほっこりとさせられる良作、である。
小泉今日子と小林聡美という異色の組み合わせに、いったいどんなドラマになるんだろうと興味津々で見始めたが、人気アイドルと演技派女優の見事なまでのコラボレーション、このキャストを考えた制作サイドに拍手を送りたい。
売れないイラストレーターのなっちゃん(小林)と、大学の非常勤講師のノエチ(小泉)は、夕日野団地で生まれ育った幼馴染。いつも一緒にいて、実の家族よりも仲が良いほど。
その二人を中心に、個性豊かな団地の住人が巻き起こす事件、人間模様が本ドラマの背骨。
劇中の夕日野団地のロケ地となった東久留米の滝山団地をはじめ、都内の団地のほとんどが昭和30年~40年代に建築された。
老朽化が進んだり、リフォームされたりと状態は様々であるが、それらは今となっては古き良き時代の遺物として見られることが多い。
団地というノスタルジーを感じさせる空間は、一般的な住環境で暮らす人々にとってはある種の非日常を感じるものに違いない。
最初はそんな団地の生活をのぞき見するような感覚でドラマの世界に入っていったのだが、主人公のなっちゃんとノエチの軽妙なやり取りと、団地の人々との人間関係の楽しさに、いつの間にか夕日野団地の住人になって一緒に暮らしているかのような錯覚に陥る。
脚本の吉田紀子や、演出の松本佳奈らの手腕と、演じる俳優陣の実力によるものだろう。
なにせ舞台が舞台なので、俳優陣も高齢だ。
丘みつ子、橋爪功、由紀さおり、名取裕子、ベンガル、島かおりなどのベテラン俳優が、団地生活のリアリティを高める。
また、塚本高史、前田旺志郎、田辺桃子、ユン・ソンモらの準レギュラーに、ムロツヨシ、仲村トオル、市毛良枝、眞島秀和などのゲストも個性豊かだ。
特に、ヤンママを演じた田辺桃子は彼女の女優としての器用さ、懐の深さをいかんなく発揮しており、さすがだ。ゆるキャン△で大垣千明を演じていた彼女が、ホットパンツのセクシーヤンママ、、、、まさにGAP萌え。それ以上にヤンママにしか見えない演技力の高さが素晴らしい。
田辺桃子演じるヤンママ・沙耶香が、高齢者ばかりの団地住人との対比で映える。
ドラマの世界は回顧主義的に団地の生活って素晴らしい、というものではない。
過去の古き良き時代の記憶ではなく、現代の、高齢化が進んだ現在の団地のあり方や、人と人のかかわり方と、そこで生きる人たちの前向きに幸せを模索していく様が、活き活きと描かれている。
なっちゃんとノエチの二人の一見、能天気に見える暮らしも、先が見えない苦しい世の中でも目の前にある現実と向き合い小さな幸せに満足する、足るを知る生き方がそこにある。
それは二人が団地の生活と、そこに生きる人たちを愛しているからこそ。
助け合うことを自然にできる人間関係と環境。
苦しいことがあっても一緒に生きる仲間がいれば人生楽しい、そんな明るさが元気をくれる。
先日ネットで読んだある記事にあったが、最近の若い人には団地生活が魅力的に映るそうだ。それは地方のような濃密な人間関係と、都会の希薄な人間関係のちょうど中間にある、ゆるやかにつながる人間関係が、生きやすいということらしい。
これはとてもわかる気がする。
「団地のふたり」の住人たちも、なんとなくそのゆるやかな関係で生きているように見えるし、それが心地よさを感じさせるのかもしれない。
いつまでもなっちゃんとノエチ、団地の住人の生活を見ていたくなる本作。
今年で56になるMATTにも、楽しく人生を生きるヒントになる良いドラマだった。
最後に、団地の暮らしを動画配信して世間に夕日野団地の生活の楽しさをPRした、田川(塚本高史)の娘・はるなを演じた 大井怜緒。まだ無名だが、子供らしい可愛らしさが印象的な子役で、将来楽しみだ。