言わずと知れた向田邦子の名作。
昔ポッキーのCMで四姉妹というのがあった。
清水美沙、牧瀬里穂、中江有里、今村雅美の4姉妹の楽しそうな様子を見て、当時のMATTは子供を持つなら4姉妹がいいな、と思っていた。
が、CMは楽しそうな一シーンを切り取ったものに過ぎないということに気づくのはずっと後だった。「阿修羅のごとく」で描かれている通り、女4人も集まればかしましいし、男にとっては地獄以外のなにものでもない(だろう)。
原作は何度かドラマ化・映画化されているが、2003年の森田芳光監督の作品はキャスティングが興味深い。Netflix版と比べてみるのも一興だ。
是枝裕和監督作品は玄人好みする作りで、どの作品を見ても外れがない。
今回のドラマも、昭和の生活を色濃く映し出すセットや小道具は言うまでもなく、映像、演出、役者のセリフ回しなど、昭和生まれには懐かしい雰囲気の作品となっている。
キャスティングも宮沢りえ(綱子)、尾野真千子(巻子)、蒼井優(滝子)、広瀬すず(咲子)の4姉妹ともに、どこか古風な香りをまとう女優というだけでなく、各世代の演技派No1クラスをそろえた。4人の共演は豪華で奇跡的ともいえる。主役が4人いるドラマを見ているようなものだ。
男衆には國村準(恒太朗)、鷹男(本木雅弘)、勝又(松田龍平)、陣内(藤原季節)、内野聖陽(貞治)と、骨太、軟派を巧みに組み合わせていて、こちらも見事な配役といえる。
中島歩もちょい役で味わい深い演技を見せている。
また本木雅弘は、昭和のサラリーマン社会を巧みに生き抜く調子の良い男を飄々と演じ、好演している。
その他女優陣にも松坂慶子、夏川結衣、戸田菜穂、高畑淳子といったベテランに加えクセのある役をやったら随一の瀧内公美(赤木啓子)がいい。
まだ無名だが巻子の娘・洋子役の野内まるは、是枝監督に使ってもらったところを見ると、将来見どころある女優さんなのだと思う。個性的で目を引くので今後活躍するかもしれない。
事務所もあのユマニテというのもよい。
ちなみに森田監督の映画版では洋子役は長澤まさみだった。
野内まる。ユマニテのHPより拝借。
TBSで放映中の「御上先生」にも出演中。今後期待の女優さん。
父・恒太朗の不倫疑惑から始まる竹沢家の4姉妹それぞれの人生が絡み合いながら進んでいく。綱子は貞治と不倫していて、巻子の夫・鷹男も会社の秘書・赤木啓子と怪しい関係。
姉妹の中で一番固い滝子は、勝又と純な愛を育むが、派手な咲子はボクサーの陣内にぞっこん、と姉妹それぞれの生き方も個性豊かで話題に事欠かない。
昭和の時代も現代も男と女の間に起こる事件にはなんら大きな違いはない。
だが、違いがあるとすれば人々の受け止め方、世間の目だろうか。
所詮は各家庭、個人の問題であり当人たち以外の人間にとってはどうでもよいこと。
それが昭和の時代は許されていて、現代は許されない。
本作では巻子の出番が多く、彼女の行動を軸にストーリーが回っていく。
巻子の生き方を見ていると、現代の若い女性はどう思うだろうか。
家の外で怪しい動きをする夫に悩み苦しみながらも、気丈に母として妻としてふるまう。
その懐の深さというか、我慢強さに昭和の女性はこんな感じだったかな、とも思う。
ある意味個人も世間もおおらかさというか、芯の強さがあったのか。
人生悩んでも仕方ない。すべてを不幸として捉えるのではなく、明るく笑って受け入れよう、というかのような。
だからドロドロの男女関係になっているはずなのに、4姉妹の一挙手一投足を笑って見ている自分がいる。どこか底抜けに明るい生き方は、今を生きる現代人にとっては羨ましい限り。
女4人集まれば、と書いたが4姉妹が集まると喧嘩はするしマウントの取り合いをするし、とにかくかしましい。
だが、本当はお互いのことを思いいたわりあう優しさが裏にはある。
終盤、家族が竹沢家に集まった時、鷹男が勝又にささやく。
「女ってのは阿修羅みたいなものだ。表の顔で笑って、裏で悪口言い合うのさ」
それはそうなのだろう。
だが、表の顔でいがみ合っていても、裏では女同士しっかりつながっているのも女。
男はそれを知らないと、こっぴどく痛い目に合うのだろう。
良い原作、良いキャスティングに良い監督+音楽もよかった。
全てそろった本作は、老若男女に是非観てもらいたい一品だ。