NHKの夜ドラで、この枠は良作が多い。生方美久と並んで坂元裕二チルドレンと言ってもいいのだろうか、兵頭るりの名を知らしめた作品。
本作は昨年放映された「マイダイアリー」と比べて、主要登場人物が2人ということもあり心理描写においての繊細さの質が高い。
笠松ほたる(蒔田彩珠)、鍵谷美晴(高石あかり)の二人の幼馴染の不思議な関係性を軸に、お互いのことを少しずつ理解していくうちに固い友情が芽生えてくる様を、彼女独特の優しい眼差しと言葉で描いていく。
物語は大半が笠松ほたるの視点で進んでいく。
子どものころから言いたいことが上手く言えず、自分を抑えて生きてきた。
いつかそんな自分を違う自分に変えたい、そう思っていた彼女の前に人生の節目で必ず近くにいる鍵谷美晴。
ほたるにとって美晴はなりたい自分を生きている存在だった。
そして、就職活動で連敗が続き精神的に参っていた時、ふとエントリーシートに鍵谷美晴のことを自分のこととして書き、そのまま志望する会社から内定をもらってしまう。
美晴はなぜか折に触れほたるの前に現れて、ほたるの生活にやたらと絡んでくる。
ほたるにとっては後ろめたい存在なので、文字通り「最悪な」ともだちとなっていく。
人生の一発逆転を果たして順調に社会人生活を過ごすほたる。
しかし同期の和佳奈(久間田琳加)のある一件をきっかけに自分の生き方を見つめ直さざるを得なくなり、とうとう会社を休職してしまう。
そんな時に、しばらく会っていなかった美晴と出会うほたる。
再会してしばらくは何事もなかった二人の間に大きな転機が。
ほたるが酔っ払ってつぶれてしまい、美晴の部屋で寝ていた時にほたるは美晴に彼女の人生を奪った(エントリーシートのこと)ことを告白する。
それを聞いて冷たい声で「帰って」、とほたるを追い出す美晴。
(この時の高石あかりの表情と声色の急転は「ベイビーわるきゅーれ」のちさとがアサシンに変貌する様を彷彿とさせる演技だった)
その後最終回に向かって二人はお互いの心の距離を縮めていく。
最終週は美晴の視点でこれまでの出来事が語られる。ここで視聴者はほたるの視点では知りえなかった事実を知ることになる。
二人はそれぞれ、自分に無いものをお互いの中に求めていた。
ほたるは人の一歩前を行く生き方の美晴をうらやましく思い、美晴は常に自分を変えていこうと頑張るほたるに憧れていた。
しかし共にそれは自分が勝手に思い描いていた相手の姿であり、それぞれ本人は自分とはどういう人間なのか?を見ていなかった。
自分と真正面から向き合わずに生きてきたところだけは、二人とも同じだったのだが。
そのことが分かった時、二人はお互いが自分にとってかけがえのない存在であることに気づく。かつてほたるが思っていた、いちばん最悪なともだちは、いちばん最悪な自分だった。
目の前のともだちは、かけがえのない存在だったのだ。
蒔田彩珠と高石あかりは、繊細な心模様をとてもフレッシュに演じていて、兵頭るりの世界観を体現していた。
「マイダイアリー」では主演の清原果耶と、時折停滞する彼女をドライブする役に見上愛がいた。本作では蒔田彩珠に対する高石あかりがそのポジションか。
偶然だが、見上愛、高石あかりともに朝ドラのヒロインが決定している。
それだけの実力ある役者ということなのだろう。
共演者の中でも存在感を放っていたのが市川実日子。
クリーニング屋の主人で、人生という孤独な船旅を続けるほたると美晴の灯台のような存在で味わい深い。
現在放映中の「ホットスポット」とはまったく違うキャラクターを演じる彼女。
余人に代えがたい存在の役者であることは間違いない。
そのほか、サーヤ、井頭愛美、倉悠貴、高杉真宙、倉科カナ、マギー、紺野まひる、原田泰造などが脇を固める。
倉悠貴はユニークな演技でほたるの友人を好演。
ゲストでは筒井真理子、西田尚美がちょい役で出るあたりNHKらしい。
出口夏希はまだブレーク前だったろうか。終盤には白石麻衣がちょっと変わったマッサージ師役で登場。
蒔田彩珠と高石あかりの2人は今クールのTBSドラマ「御上先生」の生徒役で共演している。まだ二人が絡むストーリーはないが、今後をそう言ったシーンがあるか、楽しみだ。
神戸が舞台。
美しい風景をアーティスティックなカメラワークで魅力的にとらえている。
凝ったカットが多く、映像も見どころの一つ。