これはずっと観たかったドラマ。
2022年の8月11日、終戦記念日の少し前に放映された。
「下町ロケット」「VIVANT」などで脚本賞を受賞している八津弘幸(栃木県出身らしい)の脚本、古川琴音主演というので期待大。
昭和初期から戦後まで、新宿のムーランルージュでトップアイドルとして活躍した明日待子がモデルの史実を元にしたドラマ。
1時間半弱のドラマだったが、八津弘幸の手腕でまるで朝ドラを観ているかのようなドラマチックな展開で見ごたえある。
ただお話自体の面白さ、テンポ良さをなんといっても古川琴音の演技がしっかりと支えていることが大きい。
冒頭、岩手から東京に出てきたばかりで、訛りが垢抜けない田舎娘の古川琴音が、徐々に舞台に立つようになりレビューに出る中で、トップアイドルとして成長していく。
そして流行の先端で煌びやかな輝きを放つ女性に開花していくが、戦場の慰問に訪れて絶望的な現実を目の当たりにし、その悲劇を乗り越えて最後に微笑むまでを、すべて違った表情で表現しきった。
そこには厳しい戦中戦後の世界を生き抜いた、一人の女の人生が確かにあった。
これほどの演技力を備えた若手女優はそうはいない。
その点で古川琴音の女優としてのレベルの高さを感じざるを得ない。
彼女の持つキュートさ、コケティッシュさ、女優としての奥行きの深さ、すべてが堪能できる本作は、一見の価値大いにありと言える。
ムーランルージュが舞台なので当然踊り・歌がふんだんに出てくるのだが、そこは山崎育三郎、愛希れいらミュージカルが本職の役者さんがリードして華やかかつ、躍動感あふれる舞台を再現。
また支配人役の椎名桔平は、最初は金儲けしか考えていない守銭奴なのかと思いきや、戦時下において軍の無茶な要望に対し、毅然とした態度でムーランルージュを守ろうとする。
自らの信念を貫いた男気ある昭和の男を魅力的に演じていた。
愛希れいか。
最近、NHKの話題のドラマに連続出演。
華があるし、このドラマでも見せた様々な感情表現がとても良い。今後楽しみ。
物語終盤、待子は自ら志願して中国に展開する陸軍の部隊に慰問に出向く。
最初は自分を応援してくれていたファンたちを励ますつもりだったのが、公演の前に部隊長から「明日前線に行く若者たちが、死ぬ前に最後に笑える舞台にしてほしい」と伝えられ衝撃を受ける。
生きる希望を与えることが自分の役割だと思っていたのに、実際は死にゆく者に最後に笑ってもらえることしかできない無力感。
アイドルとして生きてきた待子にとって、なんとも残酷な現実だったろう。
その心中を考えると胸が締め付けられる。
こういったシーンも古川琴音は待子の無念さを全身全霊で演じきっていて、涙を誘った。
戦争という大きな時代の流れに翻弄されながらも、常に前向きに明るく強く生きた、一人の女性の生きざまが胸を打つ反戦ドラマとしても見ごたえある。
これ、朝ドラでやっても良かったようなお話だ。
(その場合は、もちろんヒロインは古川琴音で)
ラストシーンで一人の少女の歌を聴くオーディションのシーンがある。
もしやと思ったら、彼女は美空ひばりの幼少期だったよう。
少女はいう。
「私、待子さんのようなスタアになる」
それに対して待子は「私はスタアでなくて、アイドールよ」と答える。
美空ひばりはその後押しも押されぬスタアになった。
アイドルは現代でも日本で生き続けている。
それは、きっと平和な日本の象徴であるのだろう。
明日待子が望んだように、アイドルは生きる希望を与える存在であり続ける。