TBS「日曜劇場」のドラマのクオリティの高さは今更言うまでもない。

 

野木亜希子+塚原あゆ子+新井順子という強力チームに、神木隆之介、杉咲花、土屋太鳳、斎藤工、池田エライザ、宮本信子、國村準、沢村一樹、中嶋朋子、酒向芳、滝藤賢一、麻生祐未、尾美としのり、美保純と、豪華なキャスティング。

その他共演者も多数で、朝ドラのように書ききれないほど。

そして今年炭鉱の閉山とともに島民が島から離れて50周年になる端島が舞台で、その端島のCG再現&ロケ敢行と話題性もばっちり。

 

それらがこのドラマを見ようというモチベーションになったのは事実なのだが、それ以上にMATTを惹きつけたのは、軍艦島で有名な端島の存在だった。

以前から一度は行きたい場所だった端島。

それは、MATTが廃墟マニアでもあるからだ。

 

廃墟の魅力は、今は朽ち果ててしまった建物や施設にも、それらが現役だったころにはそこに確かに人々の生活があったというところ。

廃墟の持つ「記憶」に思いを馳せるところに大きな浪漫を感じる。

そしてその行為こそが色の無い廃墟を輝かせる。

 

野木亜希子はこのドラマで、今では廃墟となってしまい「世界遺産」として人々の中では「過去の記憶」となってしまった端島に、かつてそこで人々の生活が、人生が息づいていたという事実、歴史を描きたかったのだろうと思う。

 

端島に対する壮大な想いと敬意をベースに、神木隆之介演じる(一人二役の)鉄平と玲央という主人公を据えて、時を超えたスケールの大きな切ない恋物語を描いた。

物語序盤は何を描きたいのか、どこに向かうのかわからないまま視聴者を引っ張っていき、最後の最後に息もできなくなるほどの感動を視聴者に与えることで壮大な抒情詩を展開した、野木亜希子の作家性に言葉も出なかった。

 

一流の演者をそろえたこのドラマ、最近女優として成長著しい池田エライザもよかったのだが、晩年の朝子を演じた宮本信子とシンクロするかのように、若いころの朝子を演じた杉咲花の女優としての輝きに圧倒された。

「アンメット」でも彼女の演技力の確かさは感じたが、主役でないのにここまで心に残る演技で魅了させる女優さんは、そういない。

杉咲花、月並みな言い方しかできないが言葉では到底表現できない魅力を彼女は持っている。

 

あともう一人、若い清水尋也を挙げたい。

映画「ソロモンの偽証」で非常に印象的な演技を見せていて、最近は「マル秘の密子さん」でも好演。本作でも繊細な心情を見事に表現し、神木隆之介に負けない演技をしていたと思う。

 

宮本信子、國村準、沢村一樹、中嶋朋子らのベテラン勢の安定ある演技も忘れてはいけない。特に宮本信子と國村準の存在感には圧倒させられる。

 

King Gnuによる主題歌「ねっこ」もドラマにマッチしていて泣かせる。

特にラストシーン、晩年の朝子と玲央が訪れた施設の庭一面に咲くコスモス(コスモスは鉄平と朝子が将来一緒に植えようと約束した花)と、海の向こう遠くに見える端島の映像にあわせて、「ささやかな花でいい」とかぶせるようにかかる主題歌が感動を呼ぶ。

朝子と鉄平の叶わなかったが、心の底深くで通い合った尊い愛が見る者に刺さる。

 

この秋ドラマは秀作ぞろいだったが、完成度の高さとスケールの大きさでは一番の秀作だった。

 

長崎は行ったことの無い5県のうちの一つ。

いつか端島にも行ってみたい。

 

最後に、最近「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」「虎に翼」で印象的な演技を魅せて活躍中のこの女優さん。

片岡凛。

有村架純と同じ「フラーム」所属。

今回はそれほど出番はなかったものの、活躍に期待。