同じNHKの「3000万」が、新たなチャレンジとアイデアで心に残る秀作ドラマだったが、本作は秋ドラマで完成度の高さで一番の作品と言っても良いと思う。
今年2月の「舟を編む 〜私、辞書つくります〜」も素晴らしかったが、最近のNHKドラマは実に充実している。
伊予原新の小説が原作で、なんと実話が元になっているというから驚いた。
これほどドラマチックな事が現実に起こるとは、人間というのは無限の可能性を秘めているということか。
定時制高校の生徒たちが元エリート科学者で教師の藤竹(窪田正孝)とともに、科学部で「教室で火星を作る」というテーマに挑戦し、最後は発表会で優秀賞を受賞、さらにJAXAの「はやぶさ2」の基礎実験に参加するまでの、まさにシンデレラストーリー。
主演の窪田正孝は熱血教師ではないが、優しく生徒を見守り、激しい感情を表に出さないが科学者らしい熱意で生徒たちを導いていく藤竹を、緻密な役作りで演じている。
この窪田演じる藤竹がいるからこそ、個性的な生徒たちのキャラが映える。
彼の役者としての力量の高さを見せつけられた気がする。
ディスクレシアという学習障害を持つ柳田(小林虎之介)、起立性調節障害の佳純(伊東蒼)、フィリピン人のアンジェラ(ガウ)、町工場の社長の長嶺(イッセー尾形)の4人の物語もそれぞれの生きてきた背景が丁寧に描かれ、その描写があるからこそ様々な出来事や困難を乗り越えて、最終話の発表会につながり大きな感動を呼ぶ。
定時制高校といえば、昔はやんちゃな若者の集まりという印象だった。MATTの友人も行っていたがそんな話はたくさん聞いた。
しかし制作スタッフによると今の定時制高校は、ドラマのように様々な事情を抱えた人たちが通っているらしい。
そんな現場だからこそ、描きたくなるドラマもあるということなのだろう。
放課後(といっても定時制なのだ夜だが)、問題を抱える生徒たちを一人ずつ科学部に勧誘して、科学の面白さを共有していく藤竹。
ふと、MATTの高校時代を思い出した。
物理の先生は厳しく体罰もお構いなし(よく固い出席簿で頭をどつかれた。今なら150%虐待だ。。。。)、でも赤点の生徒を放課後物理教室に呼び出し補習を受けさせる。
だが、その時の先生は二重人格化と思うほどに優しく、実験の楽しさを熱心に教えてくれた。
あの時に物理に興味を持っていれば違う人生があったろうか。
いや、バリバリ文系のMATTには無理だったな。。。。ww
閑話休題
このドラマには色々な人生における教訓が示唆されている。
それは科学という一般的にとっつきにくいテーマを中心に据えながらも、人との関りの大切さや、人生を生きることの意義を描いているからだ。
全10話、どのお話も感動的な内容だが、MATTはその中でも3話の「オポチュニティの轍」にジーンときた。
NASAの火星探査車の話で、オポチュニティは機械だが、彼の孤独な闘いを支える人々がいて、彼の活動を知る人たちによって永遠に讃えられる。
オポチュニティの存在は同じく孤独に苦しんでいた佳純に勇気を与える。
佳純役の伊東蒼の、心の内面を様々な表情で魅せる演技力には毎回感心させられるが、今回は柳田を演じたほぼ無名の小林虎之介が素晴らしかった。
30年以上昔のドラマになるが、NHKの「十九才」で初めて織田裕二を見た時のような、何かを感じた。とても鬱屈したものを内包している、その若いエネルギーの迸りのようなもの。
こういった力のある役者さんを見つけ、キャスティングできるのがNHKの強みだろう。
イッセー尾形は最近ドラマでとても存在感を放ってきている。
彼の一人芝居を昔TVで観たが、表現力のすごさに圧倒された。
本作でもわき役ながら存在感は半端なかった。
アンジェラ役のガウも出演は多くないが、こういう人をキャスティングするNHKには感服する。とてもよい演技をしていて、もっと活躍してもらいたい役者さんだ。
田中哲司(アロハシャツがこんなに似合う人はいない)、木村文乃(出番があまりないが、、、)、紺野彩夏、菊地姫奈、南出凌嘉、山﨑七海、佐久本宝、高島礼子、長谷川初範、朝加真由美ら、若手・ベテランがいい具合に配置されている。ゲストでは山田キヌヲが参加。
脚本は澤井香織が担当。良いドラマを作る脚本家だと思う。
MATTのような年齢を重ねたものにはぐいぐいと刺さるドラマだったが、本当は若い人に見てもらいたい作品。そして一歩を踏み出せずにいる人に勇気を与えてくれる作品だ。