豊作の秋ドラマにあって、誰もが楽しめるタイプのライトな造りの作品の中では秀作だった。
まずタイトルの秀逸さ。
これから何が起こり、どんな展開になっていくのか?あのクズとはだれ?
と想像が膨らむところがよい。
そしてなんでもこなす奈緒だが、彼女がボクサーになるテーマというのもドラマファンにとってはワクワクするキャスティング。
1話の入り方も巧いつくりだった。
だが、3話くらいまでは、これってイケメン玉森裕太を王子に据えた普通の恋愛ドラマでは、、、と疑念を抱かせる展開で正直観るのをやめかけたのだが、、、
その想いを変えたのは4話のラスト。
渡部篤郎演じる羽根木や、玉井詩織演じる新田らの何か裏があることを想起させる演出で、多くの視聴者をつなぎ止めたのではないだろうか。
そこからはテンポ良い展開と、奈緒が殴りたいクズとしてターゲットを定めた葛谷海里(玉森)の過去への償いに対する葛藤や、心の揺れで生じるほこ美(奈緒)との距離感の変化が、観る者を焦らし、次の展開を楽しみにさせてくれた。
それにしても、(試合の中で結果的に、だが)海里によって命を落とした先輩であり友人の平山大地(大東駿介)の遺族が、異様に激しく海里のことを恨む姿だけはどうも違和感が強かった。大切な人を殺されたとはいえ、ボクシングの試合の中での出来事。
恨むことはあったとしても、その弟・悟(倉悠貴)が海里に酷いことを仕掛けたりと、ここだけは脚本に無理があると感じざるを得ない。
それはさておき、本ドラマは主演の奈緒の表現力、演技に対する一途な姿勢が如実に表れている点で、やはり彼女の実力に支えられた作品という気がする。
奈緒は様々な個性あるキャラを演じることができるが、今回のほこ美のようなキャラクターもまた、奈緒の得意分野だ。
一方で脇を固めるキャストがかなり素晴らしかったというのも特筆ポイント。
渡部篤郎や斉藤由貴、橋本じゅん、安井順平らのベテラン勢はもとより、若手が良かった。
岡崎紗絵(羽根木ゆい)、小関裕太(大場)、新田(玉井詩織)、そしてさや美(鳴海唯)らは、それぞれのキャラを魅力的に演じていた。
特にまっすぐで包容力のある大場を演じた小関裕太は好感度が強まっただろう。
さや美を演じた鳴海唯も、芯の強い女性を印象的に演じていた。
子役の磯村アメリも出ていて、将来楽しみな若手が存在感を示したキャスティングに〇。
小関裕太。良い人限定ではなく「ライオンの隠れ家」で、珍しく善人以外を演じた向井理みたいな路線を目指してほしい。
鳴海唯。「すべて忘れてしまうから」で強く印象に残った。これからが楽しみ。
斉藤由貴はほこ美の母親でスナックのママ役だったが、いつになったらカラオケで自分の曲を歌うのだろうと待っていたが、結局歌わず、、、笑
ただウイスキー(?)のボトルのラベルには「初戀」の文字が・・・・
ドラマは最終回に1話目の冒頭のシーンがつながる演出で、勢いがついた。
そしてやや予定調和的ではあるが、ほこ美が海里のリングサイドからの応援もあり初勝利、
ハッピーエンドとなるがこの点は楽しむドラマなのでOK。
そして最終話で全員が自分を「クズ」だと自認する展開も、タイトルの「(殴りたい)あのクズ」は誰と言うわけでもなく、皆が持っている成長したい自分へのエールであることがわかる。
奈緒は比較的良い作品に恵まれた女優さんだと思う。
それも色々な作品に出演して、演技の幅を広げて来たからこそ。
息の長い女優さんになると感じた作品だった。