この秋のドラマは近年まれにみる大豊作のシーズンだと思う。
そんな中でトップクラスの面白さを誇るのが、NHK「土曜ドラマ」の「3000万」だ。
最初は見るつもりではなかったが、ネットで面白いという口コミが多数あり見始めたらもう止まらなかった。
海外のドラマ制作では一般的なWDR(Writers Development Room)方式で、4人の脚本家が分業して脚本を書いている。4人分の頭脳によるアイデアと発想で、どんな展開になっていくか予測不可能なスリルを存分に楽しめた。
そして脚本の面白さに加えてキャスティングも大人の都合で決まらないNHKらしい、絶妙なものとなっていて本ドラマの完成度の高さに貢献している。
主演の安達祐実と青木崇高の二人の演者が、かみ合っているようでかみ合わない夫婦をリアルに、時にはコミカルに演じていてこのドラマのもう一つの見どころでもあるだろう。
ストーリーは昨今世間をにぎわせている闇バイトがベースになっていて、ひょんなことからその裏社会との接点を持ってしまい、事件に巻き込まれていくごく平凡な家族が主人公。
このドラマの怖いところは、誰しもがほんの少しの心の隙間を持っていることで思わぬ方向に人生が狂っていくというリアルが描かれているところ。
祐子(安達)もその夫の義光(青木)も子供の養育費に頭を悩ます、どこにでもいる夫婦であり、とても大事件に関係するような人種ではない。
だが、闇バイトのような昨今の事案は闇社会と一般社会の接点が近く、境界線が薄まっているという現実がある。
その”近さ”がこのドラマの描く本当の怖さなのだろう。
全8話だが毎話がドラマチックな展開で伏線が複雑に絡み合い飽きさせない。
NETFLIXなど配信系は豊富な資金力にものを言わせて面白いドラマを連発しているが、脚本とキャスト、そしてアイデアを駆使すればこんなに面白いドラマが作られるという可能性をNHKは示してくれた。
ちょっと前のハリウッドのインディーズ系映画や昔の韓国ドラマを見ているようだ。
キャスティングの話では主演の二人以外はほとんど主役級の俳優はいない。
老刑事に野添義弘、若い刑事に愛希れいか、犯人役ソラに森田想、ソラの母親役に片岡礼子、そして闇バイトの大ボス役に清水美砂といったところ。
一般的に名が売れているのは清水美砂くらいか。
坂本役の木原勝利はほぼ無名でありながら、存在感を見せていた。
各俳優陣の熱演も、このドラマの面白さに大いに貢献している。
森田想。癖のある役をやったら彼女の存在感は半端ない。
最終回も二転三転で息をつかせぬ展開だったが、大ボスが警察に逮捕されて事件は終息へと向かう。
犯罪組織を相手にソラとともに最後まで立ち回った祐子を家で待つ義光。
息子に買ってあげたピアノ(そもそもこのピアノが今回の大事件を起こす動機となったものなのだが)で、ショパンの「別れの曲」を弾いているところに息子が現れる。
息子に優しく語り掛ける義光。「ママはきっと帰ってくる」
しかしその頃祐子は家路に向かう車の中で逡巡していた。
信号が青になっても動かない。
その間、約十数秒。
その時間が長く感じる。この緊迫した時間の重さに押しつぶれそうになる。
やがて赤になり、次に青になった瞬間、祐子は車をUターンさせて走り去る。
これだけの犯罪に手を染めてしまった人間が、罪に問われず終わることはない。
ならば、行けるところまで行くしかない。
背筋がぞぞっと寒くなる怖さをたたえたこのシーンは、十数秒の心の揺れを表情だけで演じ切った、安達祐実の役者としての確かな実力に支えられている。
クライムサスペンスとして名作と言っていい作品だ。
最後に、共演美女を探せのコーナー。
今回は凛とした強い女刑事役を好演した愛希れいか。
こんなシュッとした美人がまだいたとは、、、、今後いろんな役で活躍してほしい女優さん。
愛希れいか。美しく、かっこいい女性刑事でした。
野添義弘演じる老刑事とのバディぶりもナイス。