同名の映画で1982年公開の「ミッシング」もタイトル通り行方不明者がテーマのお話。
ジャック・レモン、シシー・スペイセク主演、コスタ・ガブラス監督の名作だ。
本映画も行方不明となった少女と、その両親の人生をドキュメンタリーっぽい作りで描いた作品。監督の吉田恵輔の作品を観るのは初めてだが、「ヒメノア~ル」「空白」など興味深い映画も撮っているので、また観てみたい。
主演の石原さとみと青木崇高の好演が光る。
石原さとみは一般の主婦役なのでスッピン風メイクで、生活感にあふれた雰囲気でこれまで可愛く美しい女性の役ばかりだった彼女にとってはチャレンジングな役作りだったろう。
事実、劇中では汚い言葉を使い(元ヤンのママという設定)、激情型でどこにでもいる普通の女性を演じ、人間味にあふれている。
この映画は石原さとみの女優人生の転換点になるだろう。
それだけ、彼女の役作りと演技にかける熱意がすごく伝わってきた。
青木崇高は唯一、この映画の中で善意に満ちた普通の人というポジショニング。
ゆえに、怒りと失望の連続の中でその穏やかな人格と冷静な行動は安心感をもたらしてくれる。非常に重要な役柄だ。
もう一人、地方TV局記者の中村倫也の存在も光る。好きな俳優の一人だ。
TV報道の表と裏、善意と悪意、真実と虚偽を前に苦悩する一人の弱い人間を演じている。
映画を観る者にとって、彼こそが目の前で起こっている事件に対する正義を見分けるひとつのフィルターとなり得ていると思う。
物語のヒントとなっているのは、おそらく2019年に山梨県道志村のキャンプ場で実際に起こった少女行方不明事件だろう。
映画は行方不明の少女ではなく、事件が起こったことによってさまざまな誹謗中傷や奇異の目に傷つけられていく家族と、その家族を報道するマスコミの人々に焦点が当てられている。
被害者保護の視点が弱く、また被害者家族に異常なまでの倫理・道徳観や、誠実さを強いるのは日本独特なものだろう。
この映画でも悪いのは少女を誘拐した犯罪者にも関わらず、母親である沙織里(石原さとみ)が標的となり激しいバッシングを受けることになる。
「ミッシング」というタイトルには行方不明者という意味と、(何かが)欠けている、という意味がかけられているのではなかろうか。
沙織里に激しいバッシングを行った人々は他者の心を理解しようとする心が欠けている。
自分は「子供を置いて遊びに行っているからだ」などの誹謗中傷の理由となっている行動を果たして彼らは日々しているのか。
それほど欠点の無い生き方を100%しているのか?
この映画には主人公意外に様々な人々が出てくるが、人間と言う存在はいつも同じ感情と行動で生きているわけではない。
時に思いもよらない行動を起こすし、感情を爆発させてしまうこともある。
間違いも犯す。それが人間だ。
物語は結局、娘は見つからないまま2年の時が過ぎる。
しかし沙織里は娘を探すことを諦めない。
だけど一方でいつまでも悲しみと怒りに囚われているわけでもない。
自分がやりたいこと、やれることを探してまた生きていく。
その強さと弱さが人間なのだろう。
主要な俳優陣の演技力とキャスティングは素晴らしい。
また、脇を固める俳優陣も出色だ。
沙織里の弟役の森優作。この人の存在感は今後も活躍の場が多くなると思う。
小松和重、柳憂怜、美保純(「かぞかぞ」でもおばあちゃん役がナイス)など。
また出番は多くないが、物語の節目節目で存在感を放つ役で、小野花梨。
小野花梨はもっと主演ドラマ・映画を見てみたい。
小野花梨。「初恋、ざらり」は名作。早く次の主演作を。
朝ドラヒロインかな・・・・?
様々なテーマを詰め込み過ぎて焦点がややぼやけてしまっている側面もあるが、それだけ見るものの立場や視点次第で、色々と考え感じることのできる作品だと思う。
そういう意味ではMATTにとってはよい作品だった。