「行間を読む」ドラマが好きだ。

生方美久の書くドラマは、行間を読む楽しみがある。

彼女の連ドラ3作目は、過去2作品とはまた趣が違って心に刺さったとげがうずく、、、そんな作品だった。

 

坂元裕二をこよなく愛する彼女、幼い女の子が物語のキーとなると聞き、坂元裕二の傑作「mother」を思い出した。実際、海役の泉谷星奈ちゃんは芦田愛菜ちゃんを彷彿とさせる名演で、物語を盛り上げている。

 

乗りに乗っている新進気鋭の脚本家の描く世界を、こだわり抜くスタッフと、実力派の俳優陣が演じていて、これほどの贅沢なドラマはない。随分とさみしくなってしまった「月9」のブランドも再び光輝いたといえるかも。

 

MATT的喜びポイントとしては、主演女優に百瀬弥生役の有村架純と南雲水季役の古川琴音というのがなんとも贅沢で悶絶してしまう。そしてこの二人の女優がとても魅力的に描かれたことも大きな喜びである。

 

もう一人の主人公に月岡夏役の目黒蓮。彼はドラマ、映画に出演するごとに味が出てきていると思う。もっとも、このドラマのもう一人のキーマンである、津野役の池松壮亮が飛びぬけて演技力が高いので、感情表現や役作りではどうしても見劣りしてしまうのだが、、、

若いということは素晴らしい、まだまだ成長しそうという点で楽しみな俳優さんだろう。

 

劇中、夏は色々な人たちから責められる。

その責められ方があまりにも一方的で、ただただ糾弾される夏を見ていて、多くの人、とりわけ男性陣はいたたまれなくなったことだろう。MATTもその一人だ。

 

でもそれは当然のことなのだと、物語にどっぷりとハマっていくに従って少しずつわかってきた。男っていうのは、生まれた時から父親ではないのだ。

 

劇中で水季、弥生、二人の女性が母性について疑問を投げかけるシーンがあった。

女性は元来、母性を持っているという謎の定説。

その対極にあるかのように、男の場合父性は後で作られるみたいな話も聞いたことがある。

 

確かに、男は子供を産む痛みを持たない分、父親になるという「はじまり」のポイントはわからない。母親はどうだろう。弥生や水季が問題提起したように、子供を産んだ瞬間に母親になるのだろうか。

 

このドラマのタイトルである「海のはじまり」は、そういったテーマが込められているのではないかと思う。ドラマの冒頭、海が夏に問いかける「夏くんのパパはいつ始まるの」は、やはりこのドラマの大きく重いテーマだった。

 

水季と津野の二人がつかの間の間、愛を育んだ特別編も含め13話という話数はスタッフがこだわった結果。13話にぎっしり詰まったそれぞれの「はじまり」。

水季の死という「終わり」から、それぞれの人生の「はじまり」が描かれる。

悲しいことが多いドラマだが、見終えた後の爽快感が不思議だ。

生方美久の脚本も、だんだん味わい深いものになってきた。

 

演出家・風間太樹によるこだわりぬいたロケハンも見どころ。

「silent」でも見られた、物語を印象付ける風景や建物、調度類。

今回も夏が激高して椅子を蹴飛ばす喫茶店は、木更津でこのシーンのためだけに見つけてきた、とか水季と海のアパートは舞台になった小田原でも全然海の近くでもない場所にあるが、ちゃんと海の香りがする佇まい。こういったこだわりがいい。

 

共演者もとても練られたキャスティング。

月岡家の林泰文、西田尚美、木戸大聖(9ボーダーなどで好演)。

南雲家の利重剛に大竹しのぶ。

水季の勤めていた図書館の山田真歩。

海の小学校の教師に山谷花純(アンメットでも好演)。

夏の同僚に中島歩、弥生の同僚に奥田恵梨香。

夏の本当の父親役に田中哲司。

山崎樹範や、岩松了のワンポイントも憎い。

 

そして「いちばんすきな花」で、夜々の幼少期を演じた(海役の)泉谷星奈が劇中に訪れた美容室は、夜々のいる美容室で、今田美桜がサプライズ出演。ファンとしては嬉しい限り。

 

最期に、本ドラマは目黒蓮と有村架純が「月の満ち欠け」以来の競演で話題を呼んだが、なんといっても水季を演じた古川琴音が素晴らしかった。

たびたび現在のストーリーに自然に差し込まれる、水季が生きていた頃のお話がとてもいい。

彼女は確かに生きていた、この世からいなくなったのは「いなかった」わけではない、ということをしっかりと見せてくれ、それを裏付けるだけの古川琴音の演技力が光っていた。

 

古川琴音が水季を演じたことで、ドラマの中のすべてのキャラクターの陰影がはっきりと描かれたと思う。それだけ彼女の演技は群を抜いていたと思う。

 

古川琴音。ドラマでも今回みたいな映画のようなドラマしか、彼女が映える舞台はない。

つまらない作品には出ないで、こういう作品でもっと観たい女優さん。