クドカンの徹底的に真面目に面白いものを作ろうという姿勢が好きだ。

そして笑いと涙のバランスも絶妙で、日本的湿度じゃないラテンの香りがするところがたまらない。

 

それにしても最近のクドカン作品の中でも、今回のドラマはキャスティングが豪華すぎやしないだろうか。ただ、そのオールスター的な出演者たちを、一切無駄遣いなく動かしてしまう手腕はほんとにすごい。

 

小池栄子と仲野太賀を中心に据えて、橋本愛、濱田岳、高畑淳子、平岩紙、生瀬勝久、余貴美子、岡部たかし、塚地武雄、馬場徹、そして柄本明といった、主演クラスの俳優、1軍バイプレイヤーを誰一人として「いるだけのキャラ」にしていない。

各々の出演時間は少ないにも関わらず、それぞれのキャラが作品の中で独り立ちしている。

クドカンの面目躍如と言えると思うが、この作品は格別だった。

 

伊東蒼という若手注目株の女優をいい役で使っているのも心憎い。

「ふてほど」での河合優実とともに、これまで実力があるのに一般的には無名のこういった役者にスポットを当て、表舞台にひっぱりあげることができる脚本家はなかなかいないだろう。

 

マユ役の伊東蒼は今後注目の女優さん。

 

風刺に富んだストーリーもクドカン流、歌舞伎町のおんぼろ病院が舞台。

病院の医療従事者も患者も、誰一人として社会的に陽の当たる場所にいる者がいない。

でもみんなが悲壮感なく、今の生活を受け入れ活き活きと生きているさまが楽しいのは、古き良き日本の下町生活を彷彿とさせるからだろうか。

人を愛し、街を愛し、他者を許す寛容さ。

小池栄子演ずるニシ・ヨウコ・フリーマンや、柄本明の高峰院長らの広い心は、クドカン作品に一貫して流れる「息苦しくなった日本」への強烈な皮肉なのか。

 

ひとりひとりのキャラがそれぞれにメッセージ性を持っている。

橋本愛の南舞、仲野太賀の高峰亨、みなキャラの持つ性格、生き様はクドカンの描きたい今の日本の病巣だったり、希望だったり。

彼らのメッセージ性を読み解きながら見るのも楽しいかもしれない。

 

ゲスト陣もエッジの効いた配役でドラマファンにはたまらない。

八十田勇一、臼田あさ美、新井康弘、寺本莉緒、中島ひろ子に谷花音、松金よね子、ともさかりえ、羽場裕一、中山忍、藤田弓子、野添義弘、おかやまはじめ、佐津川愛美、後藤剛範、駒井蓮、「虎に翼」でも好演の戸塚純貴、そして締めには松尾スズキと、良い役者が多数出ているのもクドカン作品ならでは。

 

その中でも舞とともにNPOで働く若井あかね役の中井千聖。

最近ドラマ・映画でよく見る彼女、クドカンの舞台のオーディションでデビューしたからか、彼の作品にも多数出演。正統派美人ではないが、ブサイクでもない絶妙な加減の魅力的な女優さんだ。

 

新宿・歌舞伎町を描いたドラマだったが、ここで起こっていることは現代の日本の縮図なのだろう。それは決して平等ではない格差社会や、異国の文化との融合、特異な存在を受け入れる難しさなどなど。

それらから目そらすことはもはやできない。

ドラマが描き出している歌舞伎町は、まさに今の日本そのものなのだから。