以前たまやんに面白いと紹介されたので観ようと思っていたが、最近、気になる女優さんである伊東蒼が出ていたので観てみた。
作品にWOWOW版の「さまよう刃」、「ガンニバル」、「全裸監督」*助監督 などがあり、ボン・ジュノの助監督を務めるなど実力もある片山慎三が監督。
混とんとして猥雑な街・大阪の西成が舞台。大阪には19歳までしかいなかったが、MATTも一応大阪出身の大阪人。映画に描かれているような日常は懐かしく感じる。
他人のことを気にしない自由さの一方、いざとなったらうっとおしいほど絡んでくる二面性。
そんな大阪の複雑な世界観が色濃く出ていて興味深い。
冒頭、佐藤二郎演じる原田智と、その娘・楓(伊東蒼)のシーンから、急に失踪してしまう父を探すために奔走する楓のお話から、謎を残したままいなくなった父を「さがす」物語なのかと思いきや、ある連続殺人事件の容疑者である青年・山内(清水尋也)が絡んでくるあたりから、ストーリーは思わぬ方向に進んでいき、急展開していく。
この辺りの演出、脚本が実に上手い。また時間が前後するエピソードも破綻なくまとめてあり迷うこともない。伏線も回収されながら小気味よく進んでいく。
登場人物は多くなく、ほぼ全編で佐藤二郎、伊東蒼、清水尋也の3人中心に進んでいく。ここに森田望智が彼女らしいクセの強いキャラクターで絡んでくる。
上手い監督と、実力派の俳優の演技だけで見せる映画、玄人好みする作品だと感じた。
MATTの好きなテイスト、変質的な快楽殺人犯が出てくるというのも本作を興味深く観ることができた要因。犯人のフォーマットはおそらく2017年の座間9人殺害事件ではないかと思われる。連続殺人犯の若者・山内は、自殺志望者の若い女性ばかりをターゲットに犯行を重ねるが、殺した後に白い靴下をはかせて自慰を行うという異常性を持っているあたりはリアルだ。
IQが高く、人の命はおろか人間の尊厳すら持ち合わせていない怪物性が、非常にグロくて恐ろしい。
山内役の清水尋也は、2015年の「ソロモンの偽証」での演技が印象的だった。最近では「マル秘の密子さん」でかなりまともな青年の役をやっている。まだ若いしこれから期待の役者さん。
楓の担任役の松岡依都美は舞台役者さんなので、ドラマ・映画出演は少ないが、存在感という点で非常に魅力的な女優さんだ。「アンチヒーロー」での施設長役が印象的だった。
品川徹のおじいさん役も、この役はこの人しかいない、というキャストで〇。
そして楓役の伊東蒼。大阪出身で自然な大阪弁がよい。
彼女を初めて見たのはNHKの「ユーミンストーリーズ」の2話・冬の終わり。ちょっと突っ張っている若いパート役で、なんか面白い子がいる、という程度だった。
だが現在放映中の「新宿野戦病院」では、準レギュラーの役で主演の小池栄子や橋本愛などに負けない演技で光っている。まだ18歳、ユマニテ所属の実力派だ。
伊東蒼。実力派俳優が名を連ねるユマニテ所属。期待大。
タイトルの「さがす」にはいろいろな意味、側面がある。
父を探す娘、獲物を探す快楽殺人者、愛する妻の死の意味を探す夫、生きることの意味を探す自殺願望者。様々な「さがす」の先にはいったい何があるのか。
それは決して思っていたようなものではなかった。
それでも人は「さがす」。さがすことは生きることなのだ。
ラストのピンポンを続ける父娘の二人の長回しのシーンは印象的。
お互いに向き合って本音で話すことがなかったのだろうか。息詰まるシーンでありながら、コミカルなのも重すぎずよい。
父のやったことに気づいた娘は警察に通報する。
遠くで聞こえるパトカーのサイレンに、
娘 「迎えに来たで」
父 「なんでやねん」
というやり取りは、関西人にとっては日常的なジョーク。
最期の最後までシリアスなのかコメディなのかわからなかった、不思議な作品。
片山慎三の監督力と、佐藤二郎・伊東蒼の二人の年の離れた実力派俳優の良いお仕事が見られるお勧めの一作だ。