55歳にもなると、会社人生もあと少し、この先一人の人間としてどう生きようかと考えるようになる。そんな時に内館牧子原作のドラマがNHKでやると知って観ることにした。

 

彼女の原作作品では、舘ひろし主演の映画「終わった人」が非常に面白かった。

「老外の人」もそうだが、輝ける未来が無い人を主人公にした作品というのは、本当に作者の力量が問われると思う。

人生の酸いも甘いも知り尽くした経験・教養もある人達のドラマは、生半可な作りでは共感を得られないからだ。

 

その点でこのドラマ(全五話)は、実力派のベテラン俳優陣に支えられて味わい深いものになっている。

 

主人公の戸山福太郎に伊東四朗。娘に夏川結衣。娘婿は勝村政信。

二人の子供には木竜麻生と望月歩。

すでに他界している福太郎の妻、八重子に田島令子。

 

伊東四朗の演技が本当に自然で肩の力が抜けていて良い。

適度に嫌みで、適度にいいおじいちゃんで、それでいて含蓄ある言葉も言える。

実に人間的で魅力的だ。

 

夏川結衣は「結婚できない男」以来のファンで、最近は熟女ぶりが際立ってきている。

この作品でも可愛くて憎めない、なんともいえないいい雰囲気。

最近母親役と言えば、西田尚美、和久井映見、斉藤由貴、坂井真紀、堀内敬子、黒木瞳、片平なぎさなど、可愛くて魅力的な女優陣が多数いるが、夏川結衣はもっと出てもらいたい女優さんだ。

 

若い人や周囲の人たちに迎合するのも違う。さりとて心を閉ざして自分の殻にこもるのも嫌だ。年齢を重ねると色々見えすぎて素直になれない。

どうしても高齢者の多い社会なので、若い人からするとめんどくさい人たちがのさばっている、と言う風に思われても仕方ないだろう。

 

だけど高齢者が魅力的でなければ、若い人たちだって将来の自分たちを夢見ることはできない。自分たちもいずれ老いるときがくる。

その将来が目の前の暗い風景ではいけないだろう。

 

物語のキーになる山本和美(高橋惠子)、村井サキ(三田佳子)の二人の関係性と、林里枝(羽田美智子)とのやり取りがとても良い。

NHKらしい重厚なキャスティングは見ごたえある。

 

その他キャストも(かなり)ベテラン俳優陣が名を連ねる。

前田吟、白川和子、斉木しげる、不破万作、綾田俊樹、柴田理恵、根岸季衣、松金よね子、風間杜夫(ちょい役だが)などなど。

 

それにしても「老害」という言葉、酷くはないだろうか。

曲がりなりにもこれまで長い時間を一生懸命生きて来た人達に使う言葉ではない、と思う。

でも一方でそう言いたくなるような行為、言動の人たちも一定数いることは確かだ。

 

大事なのはこれまで生きて来た自分の人生を台無しにするような生き方をしてはいけない、ということではないか。

長生きしてきたということは、それだけで立派なのだ。

そんな立派な自分をダメにするような生き方だけはやめよう。

自分を大事に自分らしく生きることができれば、少なくとも「老害」などという酷い言葉を使われることはないはずだ。

 

このドラマを観て、そう肝に免じて生きていきたいとあらためて思った。