「攻めるNHKドラマ」の真骨頂のような作品。

テレ東、民放地方局と並んで、作りたいものを作る姿勢と製作者の想いには賛辞を贈りたい。

 

好きな小説家である桐野夏生の原作というと、面白くないはずはない。

その原作を、女性の脚本家を据えてプロデューサーも「ひよっこ」「らんまん」などの板垣麻衣子が務める。

主演は石橋静河。共演に内田有紀と稲垣吾郎、黒木瞳と実力派が揃う。

 

桐野夏生の作品の主人公(女性であることが多い)は、必ずしも万人受けするタイプではない。心の中に葛藤を抱え、理性で行動するような読者の誰もが納得するような人物でなく、極めて泥臭くて人間的で愛すべき存在だ。

 

本作の主人公の大石理紀(石橋)も代理出産を引き受ける決心をする過程や、その後の草桶夫妻(内田・稲垣)とのやり取り、出産してから双子の赤ちゃんを夫妻に引き渡すまでの心の変化や行動は、第三者からすれば整合性がまったく取れておらず、滅茶苦茶に見える。

 

そもそも母性はすべての女性に備わっており、誰もが子を望み、産んだら母親になるというのは幻想なのかもしれない。

そして本作では代理出産・代理母というテーマを主軸に話が進むが、理紀が作中で口にする「子供を産む機械みたいに思われたくない」というセリフは、常に出産というものを軽んじて考えられてきたすべての女性たちの声なき声なのだろう。

 

出産と母性というテーマに加え、搾取されるだけのサイレントプアーの女性たちの姿を絡めて、物語は実に奥深い造詣を見せる。(草桶夫妻や黒木瞳演じる草桶基の母親たちの、セレブリティ特有である無神経な階層意識が、効果的に描かれる)

 

脇を固める俳優陣に、MATT注目の伊藤万理華やちょっとの出演でも爪痕を残す酒向芳、ほか森崎ウィン、富田靖子、戸次重幸、吹越満、あめくみちこ、梅舟惟永、中村優子、草村礼子などのNHKらしい手堅い役者がそろう。

 

以前観て心に残る最高の一作となった同じNHKの「透明なゆりかご」を、最近になって見返している。出産をテーマにしたドラマとしては最高傑作だとあらためて感じた。

出産というものはまさに女性のみが経験できるものであり、男性には永遠にわかりえない。

ドラマの中で瀬戸康史も「わからないからできる限りわかる努力をしたい」と言っているのが印象的だった。

 

ラストシーンで双子を草桶夫婦に渡す約束を破り女の子の赤ちゃんを取り上げ姿を消す理紀。男性性が支配する社会(ここには草桶基の母親のような存在も含まれる)から飛び出し、女性としての幸せをわが子とともにつかもうとする理紀の強い意志が芽生えた瞬間だった。

なんとも桐野夏生らしいラストシーンで、スカッとした。

 

内田有紀も綺麗だが、黒木瞳の美しさは本当にすごいと思う。

また、最近時は特に「嫌な女性」の役がはまりすぎてやや心配。。。