TBSの「日曜劇場」枠は常に、民放ドラマ(NHK、テレ東、関西・中部などの地方局は除く)において、唯一安心して観ることができるドラマを常に提供してくれる。

 

本作品も4人の脚本家チームが1年かけて脚本を練ったというし、長谷川博己、野村萬斎らはじめとした俳優陣の熱演が10話のエピソードを大いに盛り上げて、異色の法廷ドラマとして名を遺した。

 

「真の正義とはなにか、正義の対極にあるのが悪なのか」という問いかけ通り、観る者に本当の正義や、法律というものを考えるきっかけを作ってくれるテーマ性にあふれている。

 

そして巧みだと思うのは「正義と悪」「司法のあるべき姿」を描きながら、同時に「冤罪」という重いテーマに取り組んでいるところだ。

「エルビス」が同じ冤罪にスポットライトを当てた意欲作として記憶に新しいが、あちらは某東京キー局がその内容に尻込みしたため、関西テレビが制作を引き継いだのとは対照的だ。

 

しかし、真向から冤罪をテーマにして「エルピス」とは厳密には同じとは言えない。

ただ警察・検察が犯人を検挙するために捜査方針を構築し、そのストーリーに当てはめようとするプロセスが冤罪を生む土壌となっているところをしっかり描いているところは評価したい。

 

有罪の人間を無罪にしてしまうアンチな弁護士・明墨を演じる長谷川博己は、キャラクターを作る際、喪黒福造をイメージしたのだという。なるほど、と思った。

彼と対峙する大きな敵・伊達原検事正に野村萬斎。香川照之とは違ったふてぶてしさを持った、新・悪役キャラとしてこのドラマで地位を確立した模様。

どこかコミカルな香川よりも、陰湿・陰険な何かを感じるところがキャラ被りしていなくてよいかも。

 

物語は「法律」をテーマに扱い司法に携わるものの信念と誇りを描いているだけあり、罪を犯した者に対する眼差しは甘くはない。

雇い主の社長から、あまりに酷い扱いを受けた結果、殺人に走ってしまった檜山(岩田剛典)に対しても、最終話で明墨は「他人を救う手助けをしたからと言って、罪が軽くなるわけではない」と説く。

 

一方で同じく最終話、木村佳乃演じる緑川が法廷で「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」と語るセリフが印象に残った。

このセリフにこのドラマの「裏の」テーマが見られた気がしたからだ。

「冤罪」はあってはならない。

だが警察や司法に携わる者のには「行き過ぎた正義」に囚われてしまう者もいる。

その結果が「無辜を罪人にする」ということであっては、決してならないのだ。

 

またテーマ性だけでなく、脚本と演出のレベルも高かった。

明墨と伊達原の因縁の対決、紫ノ宮(堀田真由)と刑事で父の倉田(藤木直人)の親子愛、冤罪で死刑囚となった志水(緒方直人)とその娘・牧野紗耶(近藤華)の父子の愛、明墨、緑川、桃瀬(吹石一恵)の検事の同期の絆、赤峰(北村匠海)と彼が担当し無罪を勝ち取れなかった

松永(細田喜彦)との関係など、様々な人間模様を絡めながら物語に立体感を持たせている。

 

TBS日曜劇場の十八番であるエンタテインメント性を保ちつつ、重厚なテーマに取り組んだチャレンジングな作品として、この4月クールのドラマの中でも出色のドラマだった。素晴らしい一品。

 

これら豪華な俳優陣以外では、林泰文、神野美鈴、大島優子らレギュラー陣、そして、一ノ瀬ワタル、馬場徹、小松利昌、早見あかり、和田聰宏、近藤公園、相島一之、津村知与支、大谷亮介、迫田孝也、山田キヌヲ、麻生祐未と、こちらも贅沢で豪華な配役である。

 

推しの堀田真由は、最近良いドラマに連続して出演し、着実に演技の深みを出してきているように見え、今後ますます楽しみになってきた。

今回のドラマでは2輪免許を持っていることを活かし、実際にスタント無しでオートバイを運転するなど頼もしい。

堀田真由。女優としての成長が著しい。

 

それからこれからが期待の若手に近藤華。

同世代には白鳥玉季という天才がいるが、まだ16歳、顔立ちも整っていて役者になる覚悟ができておりこちらも将来楽しみな女優さんだ。

 

近藤華。共演の木村佳乃も所属する大手・トップコート所属。

将来期待の星。