好き嫌いが分かれる作品だろう。
ドラマ・映画好きの視点から、監督の堀江貴大の確かな技術が光る良い映画だったと思う。ライティングや各シーンのカットはとても良かった。
それから黒木華が見たくて選んだ作品だったのだが、彼女のセリフが極端に少ないのも興味深い。長台詞はほとんどなく、ぼそぼそとつぶやくようなセリフだけ。
あとは細かな心の変化や揺れを表情だけで表現するという、演技力が無いとただ抑揚のないストーリーが垂れ流されるという恐ろしい状況になる。
だがそこはさすが黒木華。
そこにいるだけで女優、、、、という存在感は彼女ならではで、この若さでそれができてしまう彼女の才能が怖い。
出演者も非常に少なく、シーンも漫画家が主人公のお話なので基本的に室内、そしてタイトルにも関係する教習所のみ。
佐和の母親が住む豪邸に出演者全員が集まり、シーンのほとんどがここで展開されていく。
黒木華演じる佐和の夫・俊夫に柄本佑、教習所の教官・新谷に金子大地。
佐和の編集担当・千佳に奈緒、佐和の母親に風吹ジュン。
ここに教習所の教官役でほんのちょっと、信太昌之が出ているだけ。
奈緒に柄本佑。
このキャスティングも本作をぐっと魅力的なものにしている。
二人とも大好きな役者だ。
ストーリーは俊夫と千佳との不倫を疑う佐和がその疑念を題材とした漫画を描き、そのネームをたまたま目にした俊夫が右往左往して、どんどん追い詰められていく、、、というもの。
虚構と現実が巧みに織り交ぜられ、見る側は本当の佐和の気持ちはどこにあるのかを探りながら見て行く。
ラスト近くでタイトル回収ともいえる、「先生、私の隣に座っていただけませんか?」というセリフが佐和から俊夫に投げかけられる。
俊夫の漫画が好きでアシスタントとして漫画家人生をスタートした佐和は、いつの間にか俊夫を超える人気作家になってしまった。
俊夫はそんな自分から逃げるように千佳との不倫に走った。。。という感じだろうか。
不倫を認めた俊夫の謝罪に一度は遅い、と怒りをあらわにした佐和だが、元は佐和の「先生」だった俊夫にタイトル回収ともいえるセリフを投げかけて、二人はまた一緒に漫画を描き始める。
しかし二人で徹夜した朝、俊夫の前から姿を消した佐和。
そして残されたネームには、俊夫から去って新谷と家を出る佐和がいた。。。。
うろたえる直後に千佳から知らされたのは佐和の原作、俊夫の作画で連載がスタートするという事実。ネームの最期のページには今後FAXでネームを送るからペン入れをよろしく、という佐和のコメントが。。。。
ラストシーン俊夫の愛車のゴルフヴァリアントを運転する佐和。
ちらと助手席を見てほほ笑む彼女の隣に、新谷が座っているかどうかはカメラがパンしないのでわからない。
ちょっと謎を残して終わるのが心地よい。
陰影に富んだカメラワークと、小気味よい演出。
黒木華の女優としての存在感、それを際立たせる柄本佑の安定感ある演技。
映画として非常に良くできた佳作で、こういう映画を観たいと思わせる映画好きにはたまらない一品だった。満足です。