本放送のあった2021年~3月、といえば、アメリカ赴任がオープンになり、慌ただしく準備に入っていたころだ。

 

本作品は、森下桂子の渾身の脚本により、エンタテイメント性の強い作品となっている。

TBSの日曜劇場は本当に力作ぞろいだ。

 

綾瀬はるかと高橋一生という演技力の高い二人が主演、しかも人格が入れ替わるという、実力ある俳優にとってはチャレンジ精神をくすぐる要素も盛り込まれている。

 

サイコパスの殺人犯の犯行がフォーカスされる冒頭から、綾瀬はるか演じる刑事・望月彩子のエキセントリックな正義漢ぶり、ゴロツキ刑事っぽいが正論をぶちかます、北村一輝演じる刑事・河原三雄の熱いやり取りが繰り広げられ、これから何が起こっていくのか。。。と期待を膨らませたくなる。

 

ここに高橋一生演じる日高陽斗(コ・アース社・社長)、柄本佑演じる渡辺陸、そして彩子のバディの八巻英雄(溝畑淳平)の3人が主に絡み、ストーリーが展開されていく。

 

事件の容疑者となる陽斗と、それを追う刑事の彩子の人格が入れ替わってしまう、というのがこのドラマのキーの仕掛けだが、その入れ替わりの手法がネットでも話題になった、古典的な階段落ち(名作「転校生」)というのは、マンネリか、というよりむしろホッとする。

 

この入れ替わりのおかげでストーリーが複雑化するため、今回のように一気見していればよいが一週間おいて観ると展開について行けなくなる人も多かったのではないかと思う。

やや盛り込み過ぎ、という感はあった。

 

それでも俳優さんたち、とりわけ主演の綾瀬はるか、高橋一生の熱の入った演技で、人格入れ替わりというSFチックな設定もやや都合よい展開も、気にならずに楽しむことができた。

これは脚本と演出、それに応えた俳優さんたちの力によるところだろう。

 

「天国と地獄」というタイトルは、観る前は二人が入れ替わることによる状況を表現したものと考えていたが、それもあるものの最終話まで見て行くともう一つの意味が込められているのではと感じた。

 

迫田孝也演じる東朔也が真犯人である可能性が高まるなか、陽斗が双子の兄である東をかばうため自分が犯人であると主張するシーン。

河原が言った「しゃがれた声(殺人を犯したことを指す)でも、声は声だ」と言う言葉には、この長い停滞する日本経済の底辺で、人間らしい扱いを受けられずにもがき苦しみながら生きて来た人たちのことを言っている。

東がたまらず陽斗にぶちまけた言葉「お前が15分早く産まれていたら、俺はこんな人生を生きずに済んだ」というくだりからも読み取れるが、「天国と地獄」は、現代日本に横たわるどうしようもない格差を、アイロニーを込めて表現しているのだろうか。

 

北村一輝の河原刑事は、泥臭くてしつこく、決して諦めないスタイル。

同い年とは思えないほど若々しくイケメンで、ほんと憎いほどにかっこいい。

最近の出演では「コタツがない家」では、ちょっと色気のある編集者役がまた良かった。

 

共演者に、野間口徹、林泰文、中村ゆり、馬場徹(正直不動産2でも好演)、木場勝己、そしてまだブレイク前の岸井ゆきのが陽斗の妹役で。

 

キュートな岸井ゆきの。この後、「ケイコ 目を澄ませて」などで評価されブレーク。

 

ゲストには井上肇、酒井敏也、菅田俊、梅沢昌代、上杉柊平(このころは怪しい役ばかり)、田口浩正など。

 

そして物語のキーとなる朔也、陽斗の母親役に徳永えり。

ちょい役ながら、存在感を発揮するさすがのえりちゃん。。。笑

どんなちょっとした役でも必ず爪痕を残す。それが徳永えりという女優。

 

ドラマとしての面白さは当然ながら、綾瀬はるかと高橋一生の演技勝負みたいなところも見どころで満足度高い一品でした。