冒頭からなんとも青臭くめんどくさい主人公で文房具メーカーの営業マンの宮本浩のどうしようもないサラリーマン人生が淡々と描かれる。

 

なんだこのめんどくさい男は、、、、、

説明しようがない嫌悪感を抱きながら、同時に既視感というか親近感が湧いてくるような不思議な感覚にもなる。

そうか、、、、、うん十年前のMATT自身を見ているかのような、そんな気分がどこかにあったのかもしれない。

いや、男なら(もちろん誰もがというわけではないが)宮本の持つ苦悩は、若い頃には一度は通る道なのかも。その程度の大小はあるにせよ、だ。

 

そんなめんどくさいのだけど、実に人間くさいというか男くさいのが主人公の宮本浩であり、演じるは池松壮壱だ。

ちなみに何度も書くが、彼の演じる金田一耕助は最高だ。

全ての原作を読み込んだから自信を持って言える。原作のイメージのまま演じている。

 

全12話で一話25分。

物語の前半は駅で見かけて一方的に惚れてしまった女性・甲田美沙子(華村あすか)に声をかけ、彼女に失恋するまでが描かれる。

仕事に生きがいを見いだせず、自分と自分の周囲半径0mしか見えない、自己中心的な生き方を世の中と戦っていると勘違いしている宮本。

 

そんな男だから女性とも、会社や社会の人たちともまともにコミュニケーションが取れない。仕事もろくにできないのに弁ばかりが立ち、自分をさらけ出せないので人からも信頼されない。

こんなどうしようもない人間の話が中心なので、前半の6話までで脱落してしまう人もいるかもしれない。

 

しかし、この前半の宮本浩を愛おしい、と思えて耐えた人は後半の怒涛の展開を楽しむ切符を手に入れることができる。

前半部分でどうしようもなかった宮本は、7話以降で大きく人生を変える変貌を遂げる。

先輩で、デキる営業マンの神保和夫(松山ケンイチ)と一緒に仕事をすることで、自分のできること、自分にしかできないことを見つけようともがく。

 

その過程で他者や社会とのかかわり方を少しづつつかんでいき、半径0mしか見えていなかった男は徐々に世界との界面を広げ、他者の信頼も得ながら仕事に没頭していく。

 

9話以降、松山ケンイチ、ほっしゃん、高橋和也、酒井敏也(取引先の部長、嫌みな役で素晴らしい好演)、浅香航大、古舘寛治らの熱演でクライマックスを迎える。

ここでの演出、役者の演技は相当な迫力でこのドラマの少し前に一世を風靡した「半沢直樹」を彷彿とさせる、熱いドラマだった。

いや、むしろ外連味を取り払った分、こちらの方がその演技と世界にのめりこめたかもしれない。

 

多数の役者が出演しており、良いキャスティング。

柄本時生、片岡礼子、鶴見慎吾、綾田俊樹、安藤聖、板橋駿谷などなど。

蒼井優はちょい役だったが、この後の映画版で主役級になる。

 

当時21歳の三浦透子が1~2話で出演。

ほんの少しの出番でも存在感ある演技。すぐにパニックに陥る自分に自信を持てない女性役だったが、完璧だった。さすがだ。

 

なんだか昭和な雰囲気漂うストーリーだなあ、と思っていたら原作者の新井英樹はMATTより6つ年上で同じ大学の先輩。

新井は宮本の父親役でカメオ出演をしている。

父として宮本に語り掛ける原作者を見ていると、宮本は若い頃の自分がモデルなのだろうかとも感じた。

それから彼の奥さんは入江喜和。あの「ゆりあ先生の赤い糸」の作者だ。