WOWOWドラマを探していて見つけたこの作品。

よくある死刑囚もので、主人公が無実の罪をかぶっているのを知る友人たちが、再審請求し無実を勝ち取る、、、といったストーリーなのかと1話目を見て感じ、見るの辞めるかなあ。。。。と思っていたら、2話以降の展開でくぎ付けになってしまう。

 

早川和真原作の映画「ぼくたちの家族」に出演した妻夫木聡が、彼の書いた本作の原作にほれ込み、自ら企画・主演して作ったという意欲作。

それだけに、出来上がった映画も非常に優れた作品となっている。

 

主人公の佐々木慎一(妻夫木聡)が、幼馴染の死刑囚・田中幸乃(竹内結子)の無実を信じ様々な人たちに会い、証言を集めていく様が描かれる。

だが、通常と違うのは幸乃は一貫して自分が犯人だと主張し、再審請求も控訴もしない。

その理由は、佐々木と友人の弁護士・丹下翔(新井浩文)による関係者への聞き込みで、徐々に明らかになっていく。

 

このドラマが書きたかったものは何なのか。

死刑制度であり、冤罪が起きやすい日本の警察の体質(自白に頼る、捜査方針が決まったらそのストーリーに沿うように進める)であり、毒親による子どもの人権侵害だったりもあるだろう。だが、もっともっと根深いものが、そこにはあるように思える。

 

幸乃は育った環境から、いつしか自己肯定感の低い女性に育ってしまう。

親に「生まれてこなければよかった」という、言葉を浴びせられる。

 

自分なんかいなくていい。みんなに迷惑をかけてしまう。

人を信じたり頼ることができなくなった人間は、自暴自棄になり他者を排除したり傷つけることに走るか、もしくは自分の存在に価値を見出せなくなり、この世から消えようとする。

幸乃は後者の方だ。

 

しかしそこに至るまでの彼女の人生にも多数の分岐点があった。

そのいくつかの分岐点で救われたはずの彼女も、結局どこにもその救いはなく、気が付いたら本物の孤独になっていた。

それは彼女自身のせいなのか?彼女が悪いからなのか。

 

幸乃はすべてを自分のせいだという。環境のせいにも、誰のせいにもしない。

一方で、慎一や翔、そして彼女を取り巻く人たちはこう言う。

「あの時自分がこうしていれば、彼女は。。。」

一見、自責で言っているように見えるが、これも実のところは自分の責任ではなく、その時の状況が変わっていたら、ということを言っているに過ぎない。

 

幸乃は最後の最後まで、自分に責任がある、自分のせいだと言い続け絞首台に向かって行った。それは強さなのだろうか。

彼女が最後に刑務官である佐渡山瞳(芳根京子)に言った言葉が心に残る。

「死ぬことよりも、誰かに捨てられることの方が怖い」

彼女にとって死ぬことよりも怖いことが、人から見捨てられることだった。

その恐怖から逃れるためであれば、死んだ方がよい。

それは彼女が弱い人間だった、何よりの証だったのか。

死刑執行の直前、幸乃はかつて幼い頃に慎一たちと遊んだ丘の楽しい思い出に浸る。

彼女がほほ笑んだ瞬間、足元の床が落ちてすべてが終わった。

 

ラストシーン、翔とともに弁護活動の残務処理をしている慎一は幸乃の遺品からスケッチブックを見つける。

子供の頃の思い出の場所を描いたいくつかの絵の中から、子供の頃みんなで行った思い出の丘で流れ星を観たシーンを見つける。

そのページを破り、ぐちゃぐちゃにして捨てる慎一。

そこには最後まで幸乃に信じてもらえなかった悔しさがにじみ出ていた。

 

自らの幸せは自らの力でつかみ取るしかない。

それはそうかもしれない。

だが、そうできる環境に身を置けない人はどうすればいいのか。

それもその当人のせいなのか。

「すべては自分のせい」と言った幸乃のせいなのか。

答えようがない命題を突き付けられたようで、珍しくカタルシスのないドラマだった。

 

竹内結子はこのドラマの2年後に、40歳の若さで惜しくも亡くなった。

死刑囚の役、というのは本当に難しい。

彼女のこのドラマでの迫真の演技を見ると、どうしてあんなに早く逝ってしまったのか、非常に悔やまれる。華があり演技力も確かな女優さんだった。

もう一度「ストロベリーナイト」の姫川玲子役が観たいが、もう叶わない。

 

ほんと、竹内結子好きでした。。。合掌。

 

妻夫木聡も慎一を熱演していたが、新井浩文はじめ石橋蓮司や長谷川京子、池内博之、山中崇、ともさかりえといった共演者もよかった。

余貴美子が毒親を演じていたが、この人の役に対する熱量にはいつも感服する。

佐戸井けん太、田口浩正、原日出子、芦名星、佐津川愛美も出演。

妻夫木クン、このドラマを世に出してくれてありがとう!

 

幸乃の中学生時代を演じたのは当時16歳だった、清原果耶。

理子(長谷川京子)の中学時代を、池田朱那が演じている。

二人ともほぼ同い年だが、幸乃の持つ暗い目はおそらく清原果耶でないと演じ切れなかったろう。彼女の演技力の高さはこのドラマでも十分見ることができた。

 

清原果耶。20代前半の女優の中では、広瀬すず、芦田愛菜と並んで天才肌。

 

そして当時上り調子だった芳根京子も刑務官役で出演。

重要な役回りで、最終話、幸乃が死刑台に向かうシーンでの演技は圧巻だった。

彼女は実力ある女優さんなので、こういうドラマ・映画にもっと出てもらいたい。

最近のTVドラマでの無駄遣いはやめて、というのがファンとしての願いである。

 

彼女、制服がとてもよく似合う。

凛とした表情がそうさせるのか。

眼力も、山田杏奈や高畑充希の眼力とは質が違う。

キリリとした正義感にあふれている、というか、凛々しさにあふれているというか。

 

芳根京子ちゃん推しが長くなってしまったが、この作品、まだまだ観ていないドラマ・映画の中で名作があると改めて知る。

昨年末は、清原果耶主演の「透明なゆりかご」に出会えて一年が終わった。

今年の年末の名作は紛れもなく、この作品だろうと思う。